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調査研究報告書

中小企業のイノベーション創出に関する調査研究
~イノベーションによる地域・社会課題の解決に注目して~

1. 調査の背景・目的

 
 中小企業が新たな財やサービスを生み出すこと、すなわち継続的にイノベーションを実現することは、自社の持続的な経営だけに資するものではない。立地する地域内でイノベーションが実現することで、地域経済循環の起点となる域外資金の獲得・雇用の創出や、地域課題の解決に資する場合がある。
 イノベーションの創出においては、潜在的な「ニーズ」が存在することが重要な要素となるが、多くの地域において「ニーズ」は社会的課題を意味する。また、「Society5.0」として、政府がイノベーションによる社会課題の解決推進を政策的に進めていることや、新型コロナウイルス感染症拡大により、地域の持続性が様々な面で脅かされ、多くの課題が顕在化したことを踏まえると、今後イノベーションによる課題解決の取組の要請はさらに強まると考えられる。また、デジタル化や環境負荷低減への社会的な要請の高まり等、企業を取り巻く環 境が大きく変化する中で、中小企業自体が持続的な経営を実現するためにも、イノベーションの創出に取り組むことが重要であると考えられる。
 一方で、中小企業は、経営資源の制約からイノベーション創出の前提となる研究開発等に 取り組むことは難しく、外部の企業や研究機関、高等教育機関等との連携や、アイデアをイノベーションに昇華させるための工夫等が欠かせない。
 以上を踏まえて、本研究では、イノベーション創出を実現する様々な取組を整理したうえ で、先進的な取組を行う中小企業へのインタビュー調査を実施し、中小企業のイノベーショ ン創出を実現するために必要な取組を明らかにすることを目的とする。また、イノベーションを実現することが地域や社会の課題解決に繋がりうることについても考察する。

2. 調査方法

(1)文献・統計調査

 既存の文献や統計を用いて、日本のイノベーションの動向を確認し、企業がイノベーショ ン活動を行うにあたって重要となる概念について整理を行った。

(2)インタビュー調査

 中小企業及び支援機関を対象としたインタビュー調査を実施し、イノベーション活動の取組や課題、新型コロナによる影響等について確認を行った。

3. 調査結果

第1章 日本におけるイノベーションの動向

1. イノベーションの定義

(1)イノベーションとは

 経済協力開発機構(OECD)は、「イノベーション」についての定義を提示している。この定義を踏まえると、①「プロダクト・イノベーション」と「プロセス・イノベーション」が存在すること、②ユーザーに利用可能であること、③以前のものと比較してかなり異なるものであること、この 3 点がイノベーションのポイントであると言える

(2)プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーション

 ビジネスに関するイノベーションは、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションに大きく分けることができる。本調査研究は、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションいずれについても検証する。

(3)新規性やインパクトによるイノベーションの分類

 イノベーションは、市場や世界で唯一の新しいものである必要はなく、既存の製品の改善・改良も含まれる。前者は「革新的イノベーション」と呼ばれ、後者は、「漸進的イノベーション」と呼ばれる。本稿では、幅広にイノベーションを捉え、インタビュー調査対象の選定を行った。なお、文部科学省科学技術・学術政策研究所のディスカッションペーパー(2021)によると、企業の成長においてより重要な役割を果たしているのは、「漸進的イノベーション」で あるという。

(4)イノベーション活動について

 イノベーションを創出するために必要な活動として、以下のような活動が整理されている。

research and experimental development
(R&D) activities
・研究及び試験的開発(R&D)活動
engineering,design and other creative
work activities
・エンジニアリング、デザイン、その他の創造的活動
marketing and brand equity activities ・マーケティング及びブランド・エクイティに関する活動
IP-related activities ・知的財産に関する活動
employee training activities ・従業員の訓練活動
software development and database
activities
・ソフトウェア開発及びデータベースに関する活動
activities related to the acquisition or
lease of tangible assets
・有形資産の取得またはリースに関する活動
innovation management activities ・イノベーション・マネジメント活動

2. 世界各国のイノベーションに関する能力~日本の位置付け~

(1)グローバル・イノベーション・インデックスから見た日本の位置付け

 WIPO(世界知的所有権機関)は、世界各国のイノベーションに関する能力を指標化した「GII(Global Innovation Index)」を毎年発表している。2021 年の GII の総合ランキングでは、日本のイノベーション環境は 13 位となっている。

(2)日本のイノベーション能力の特徴

 日本のイノベーション能力を評価項目別にみると、「Institutions(制度)」(7 位)、「Infrastructure(インフラストラクチャ)」(9 位)、「Business Sophistication(ビジネスの洗練度)」(10 位)、「Knowledge and technology outputs(知識と技術の産出)」(11 位)が比較的上位に位置付けている。一方で、「Human Capital & Research(人的資本および研究)」(20 位)、「Creative Output(創造的な生産)」(18 位)の評価が低く、総合評価を押し下げる要因となっている。

 

3. 国内中小企業によるイノベーション活動の状況

(1)企業規模が大きくなるほどイノベーション活動を実行している

 科学技術・学術政策研究所(2019)によると、2015~2017 年までの間に、全体の約 38%の企業がイノベーション活動を実行している。企業規模別で確認すると、規模が大きくなるほどイノベーション実行企業率が高く、大企業ほどイノベーション活動を行っている。

(2)イノベーション活動の内容~従業員への教育訓練活動に取り組む企業が多い

 イノベーション活動を実行した企業が取り組んだ内容を確認すると、「従業員への教育訓練活動」が全体の約 68%と多く、次いで「建物等の有形資産の取得又はリース」(約 50%)、「エンジニアリング、デザイン、又は他の創造的活動」(約 42%)と続く。一方で「知的財産関連活動」は約 13%に留まっている。

(3)企業規模が大きくなるほどイノベーションの実現率が高い

 科学技術・学術政策研究所(2019)の調査によると、2015 年~2017 年までの間に、全体の約 34%の企業がイノベーションを実現していることが分かる。企業規模別で確認すると、規模が大きくなるほどイノベーション実現企業率が高くなっている。
 「プロダクト・イノベーション」及び「ビジネス・プロセス・イノベーション」別で実現した割合を確認すると、全体に対する割合は「プロダクト・イノベーション実現企業率」(約 12%)よりも「ビジネス・プロセス・イノベーション実現企業率」(約 31%)の方が大きい。

(4)イノベーション活動においては組織の若返りが重要

 東京商工会議所(2020)によると、業歴が長い(創業 51 年以上)企業では従業員の平均年齢が高くなるほど、革新的なイノベーション活動に取り組んでいる割合が低くなる傾向が見 られ、組織の若返りの重要性が指摘されている。

(5)平均年齢が低い企業ほどイノベーション活動に取り組んでいる割合が高い

 東京商工会議所(2020)によると、イノベーション活動の取組は、従業員の平均年齢が低い企業ほど取り組んでいる割合が高くなっている。組織が若いことがイノベーション活動において重要であることが分かる。

(6)外部資源の活用状況

 東京商工会議所(2020)によると、イノベーション活動の協力相手として、「顧客、販売先」が 50.4%と最も多く、次いで「仕入先」(45.2%)、「同業他社」(24.4%)と続く。今後の連携希望を確認すると、「異業種」、「大学・高等教育機関」、「買収・出資・業務提携先」、「研究機関」は、「今後も継続して、新たに連携を希望する相手」の割合が大きく、期待感が高いことが分かる。
 協力相手先の連携満足度は、「大学・高等教育機関」、「研究機関」、「スタートアップ企業」の満足度が高い。さらに、知識獲得のために利用した情報伝達経路は、「大規模会議、見本市、展示会」、「専門職団体、業界団体」が最も多く、次いで「科学誌・技術誌、業界出版物」、「ソーシャル・ネットワーク等」と続く。
 公的財政支援の活用状況を確認すると、全体の約 27%の企業がイノベーション活動のために公的財政支援を受給している。財政支援の内容では、「国による財政支援受給」が最も多く、「地方公共団体による財政支援受給」となっている。

(7)日本の企業における研究開発投資の高まり

 総務省(2020)によると、企業の研究開発費は近年増加傾向にあり、2019 年度の研究開発費は 2010 年度の約 12 兆 100 億円から約 18%増となっている。

4. 政府のイノベーション政策

(1)科学技術基本法の改正(科学技術・イノベーション基本法の制定)

 2020年、科学技術に関する理念・基本的方針を定めた科学技術基本法が四半世紀ぶりに改正され、科学技術・イノベーション基本法に名称が改められた。同法では、法の対象が科学技術の振興だけでなく、イノベーションの創出にまで拡大された。

(2)第 6 期科学技術・イノベーション基本計画

 科学技術基本法の改正と合わせて、今後 5 年間の科学技術・イノベーション政策の方向性を定める科学技術・イノベーション基本計画が制定され、イノベーションによる Society5.0 の実現が強調され、イノベーションを社会課題の解決に繋げることが志向されている。

(3)中小企業技術革新制度(SBIR)の抜本改正

 中小企業技術革新制度(SBIR)が改正された。主な内容は、①制度の目的・実施体制の見直し、②スタートアップ等への予算の支出機会の増大(支出目標の策定と実施)、③各省統一 的な運用と社会実装の促進によるスタートアップ等の機会増大である。

(4)大学等技術移転の促進

 TLO(技術移転機関)とは、大学等の研究者の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、産と学の「仲介役」の役割を果たす組織である。大学の研究成果や専門技術等の取り入れを目指す企業においては、TLO を活用した産学連携の方法も考えられる。

(5)知的財産の保護・活用等の推進

 企業がイノベーション活動を行うにあたり、自社の技術や製品の権利化等、知的財産の保 護に取り組む必要がある。また、知的財産権を活用することで、自社の技術力等を PR することができ、他企業連携等に繋がる可能性もある。

5. アフターコロナに見込まれる社会変化

(1)脱炭素化・環境負荷低減の取組の要請の高まり

 国連のSDGs(持続可能な開発目標)への取組の社会的要請が高まる中で、今後は中小企業 においても脱炭素化に向けた取組が一層求められることが見込まれる。特に生産工程の脱炭 素化は、サプライチェーンや資金調達においても要請が高まる可能性がある。

(2)デジタル社会の進展

 5G により、工場の自動化や遠隔操作が現実味を帯びてきているが、工場が立地する地方や非都市部においては 5G の基地局が設置されるまでに時間がかかる可能性がある。そこで、通信事業者以外の主体(地域企業や地方公共団体等)が特定の建物や土地の敷地内でのみ利用可能となる 5G の免許を取得し、基地局を設置する「ローカル 5G」の実証実験が進んでいる。

第2章 イノベーションのプロセスと調査設計

1.イノベーション活動を検討するにあたって重要となる概念

(1)知識のスピルオーバー効果とイノベーション

 イノベーションの実現においては、知識が企業や地域といった境界を越えて伝搬する、「知識のスピルオーバー」が重要である。コロナ禍においては、Web 会議の普及等により、スピルオーバーが起きやすい環境になっていると考えられる。

明示的な技術取引契約 技術取引契約による特許等のライセンス供与を通して知識の伝搬が起こること。「形式知」の伝搬である 例:研究機関等によるライセンス
イノベーションを
体化した中間財の流通
生産活動に関連する中間財を購入することで、中間財に体化された技術が購入企業に伝搬すること 例:研究機関や他企業との共同研究開発
研究者・技術者間の
直接の知識フロー
研究者・技術者のネットワークを通して、知識の伝搬が起こること。関連する領域の研究者・技術者どうしの交流は、特に効果が大きいことが見込まれる 例:学会、教育、インフォーマルな勉強会等
研究者・技術者の
組織のカベを超えた移動
外部からの研究者・技術者の引き抜き等により、その人物が持つ技術や知識が雇用企業に伝搬する 例:専門人材の採用
地域・国境を越えたスピルオーバー 地域や国境を越えて新たな企業が参入してくることにより知識・技術の伝搬が起こること

(出所)岡田羊祐(2019)「イノベーションと技術変化の経済学」を基に、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2)組織の受容能力とイノベーション

 外部からもたらされる知識を組織として受容する能力を、組織の「受容能力」という。受容能力は、研究開発等を通して、社員の専門性の深化によって改善されるものである。イノベーションの創出においては、受領能力を向上させ、製品やサービスの開発・改善に活用して いくことが重要である。

(3)研究開発の成果の市場への投入

 イノベーションの定義で述べたように、イノベーションとは「市場に導入されているもの」でなければならない。つまり、新しい技術を開発するだけではイノベーションとはみなされず、開発した技術を財・サービスとして市場に投入するまでが重要である。これを踏まえて、本研究では、研究開発の成果を市場に投入する際のポイントについてもインタビュー調査で確認を行った。

2.インタビュー調査に向けた論点の整理

(1)インタビュー調査の位置付け

 コロナ禍における企業のイノベーション活動については既存の文献等では調査が進んでい ない。先進的な中小企業が直面している課題は、多くの中小企業にとって共通する課題であ る可能性があり、課題への対応策も様々な中小企業にとって参考となることが期待される。 そこで、本調査では、後述する「グッドカンパニー大賞」の表彰企業を対象にインタビュー
調査を行った。

(2)インタビュー調査におけるイノベーションの定義について

 ものづくり企業を中心としてインタビューを実施するため、主にプロダクト・イノベーシ ョンについて確認することとする。また、今までにない概念の商品が市場に投入されること で既存の市場の構造を大きく変えうる「革新的イノベーション」だけでなく、既存商品の改善・改良等も含めた形でイノベーションを捉えることとする。

(3)インタビュー調査で明らかにするリサーチ・クエスチョン

 本調査の目的は、中小企業がアフターコロナにおけるイノベーション創出を実現するための取組の方向性について展望することである。これを踏まえて、以下の 4 つのリサーチ・クエスチョン(以下、RQ)を設定しインタビュー調査を実施する

分類 概要
RQ1 ・新型コロナ拡大に伴い事業環境はどのように変化したか
RQ2 ・研究開発、製品・サービスの企画における取組、成功のポイント、課題
RQ3 ・研究開発や企画の成果の市場への投入に関する取組、成功のポイント、課題
RQ4 ・中小企業が創出するイノベーションと社会課題の解決
(4)質問項目の設定

 ※詳細は、報告書本編を参照されたい。

(5)インタビュー調査対象について

 本インタビュー調査では、過去にグッドカンパニー大賞を受賞した中小企業に対してインタビューを行った。支援者としての立場から企業の取組状況の変化や課題等を確認するため、支援機関にもインタビューを実施した。

分類 インタビュー調査の狙い
中小企業 ・新型コロナによる事業環境の変化や、イノベーション活動の各プロセスへの影響について「生の声」を把握
・アフターコロナにおける社会課題の解決に資するイノベーション創出を実現するための取組の方向性に関する具体的な事例や取組を進めていく上での課題等を把握
支援機関 ・中小企業の経営支援を行う立場から見た、コロナ禍におけるイノベーション活動への影響や課題等を把握

第3章 インタビュー調査結果

1.インタビュー調査の概要

(1)インタビュー調査で明らかにするリサーチ・クエスチョン

 ※第 2 章(3)を参照

(2)調査対象一覧

 以下の中小企業・支援機関にインタビュー調査を実施した。インタビュー結果の概要は以下の通り。

企業・機関名 主要事業等 概要
伊東電機
株式会社
コンベヤ用モータローラ等の開発 ・顧客との商談に技術開発者を同席させることで、直接顧客のニーズをくみ取ることができる場を設けており、ニーズに沿った製品検討・開発に繋げる
オリオン機械
株式会社
産業機器、酪農機器の開発等 ・酪農機器の液体の冷却技術を産業用機械へと活用し、多角化を実現
・大学との共同研究の副次的な効果として、優秀な学生の確保に繋がっている
小西化学工業
株式会社
機能性化学品の開発等 ・グローバルな外部環境の変化を受けて、化学中間体の製造、有機合成だけでなく、機能性材料の製造に事業を多角化し、提供する付加価値を向上
産電工業
株式会社
電気設備工事 ・本社を創造開発センターとして、地域の大学や企業が集まって新製品の開発やサービスの企画を行う「多目的室」を提供
株式会社
テクノア
業務用パッケージソフトウェア開発等 保有する 3D シミュレーション技術は、企画から製造に至るまでの過程をウェブ上で完結することができ、検討過程で発生する廃棄物を抑制することで環境負荷低減を実現
企業・機関名 主要事業等 概要
株式会社
はくばく
大麦等の穀物関連製品の製造販売 ・肥料の生産過程で大量の CO2 が排出されることに課題を感じており、作付け量の調整や規格外品による代替を検討
・専門知識の習得のために博士課程に通う社員の支援を実施
株式会社
フジワラ
テクノアート
醸造機械等の開発等 ・研究開発の取組の中長期的な方向性を示す「開発ビジョン 2050」を策定し、同ビジョンに従って実用化を意識した研究開発に取り組む
株式会社
ボルテックス
セイグン
運輸業、倉庫業等 ・群馬大学と包括連携協定を結び、工場内における物流の自動化サービスの共同研究開発に取り組んでおり、工場内の物流品質の向上と省人化を同時に実現することを目指す
株式会社
ミクロ発條
精密小物ばね 大学の教員から世の中のニーズを聞いて研究開発を行い、製品をメーカーに提案
銘建工業
株式会社
集成材の製造・加工等 ・地元の大学に寄付講座を提供する予定であり、大学教員との関係構築を実現し、最新の木材加工技術等についての情報交換を行うことを企図
株式会社
ワイビーエム
地盤改良機器製造 量産型の製品ではなく、顧客のニーズに合わせた 1 号機の生産に取り組む中で、顧客からの様々な求めに応じて開発を進め、技術力を向上
東京商工
会議所
起業の促進及び企業
内の新事業創出等
中小企業がイノベーション創出に取り組む際に、知的財産に関する知識不足によってトラブルに発展することもある

2. 企業インタビュー内容

 ※報告書本編を参照

第4章 中小企業のイノベーション創出におけるポイント

1. コロナ禍におけるイノベーション環境の変化や課題

(1)コミュニケーションのあり方の変化とイノベーション活動

 コロナ禍において、Web 会議と対面を組み合わせる「ハイブリッド型」のコミュニケーションが定着し、ほとんどの企業がこれを前提として、顧客ニーズの把握を行っていた。
 オンラインによる顧客のニーズの把握にはメリットとデメリットがある。メリットは、打 合せにかかるコストが低くきめ細やかなニーズの把握が可能となること、デメリットは、実際の現場を見ながらニーズや課題の把握を行う必要がある場合には適さないことである。

(2)既に「デジタル」なしではイノベーションを実現することは難しくなっている

 コロナ禍以前より、生産性向上の文脈でデジタル化の重要性は指摘されてきたが、コロナ禍の中で、生産性向上だけでなく、新しい付加価値を生み出すという観点からも、デジタル 化の重要性が高まっている。インタビュー調査協力企業の多くが、自社の保有するコア技術 とデジタル技術をいかに組み合わせて新しい付加価値を生み出すことができるか、腐心していた。

(3)「アフターコロナ」においては環境問題対応の要請も強まる

 環境問題への対応は今後デジタル化と同様の重要性を持つことが見込まれる。特に、CO2 排出削減・カーボンニュートラル等脱炭素化の動きについては、欧米を中心に気候変動への関心が高まる中で、国際的なアジェンダとなっており、今後産業界もますます対応を迫られる可能性が高い。

2. アフターコロナに向けたイノベーション創出のポイント

 【研究開発の取組】
 研究開発の取組は、①対象領域の選定、②研究開発・検討、③実用化・事業化の 3 つのフェーズに分けられる。①対象領域の選定においては、社会経済の変化、技術の変化を踏まえ た上で、どのような領域で研究開発を行うのか検討することが重要である。また、自社の競 争力の源泉であるコア技術が何であるのか、明確化することが求められる。
 ②研究開発・検討は、①で選定した領域・分野について実際に研究開発や企画等を行うフ ェーズである。研究開発に取り組むにあたって、自社の技術だけでは不十分な場合は、大学や他企業との共同研究等オープンイノベーションの取組が有効である。また、共同研究の形をとらずとも、大学や他社が保有する特許のライセンスといった方法もある。
 ③実用化・事業化のフェーズについては、前提として①や②の段階で顧客からのニーズを 把握し、マーケットインの姿勢を徹底することが求められる。

【研究開発の基盤となる取組】
 研究開発の基盤となる取組としては、イノベーションサイクルを実現するための社内制度 の整備が重要である。具体的には、コロナ禍で定着したWeb 会議等オンラインの学習機会を活用した社員のスキルの向上や、リカレント教育、現場から創造的なアイデアをくみ取る仕 組の構築や、気兼ねなくアイデアを提案することができる組織風土の醸成が重要である。
 また、研究開発全体を通して、知的財産のマネジメントに取り組むことで、模倣被害や、他社の特許等を侵害してしまうことを防ぐこと、最新の技術動向の把握や、オープンイノベーションを円滑に進めること等に繋がることを指摘した。
 研究開発の取組と、これを支える研究開発の基盤となる取組を一体的に進めることで、イノベーションの創出が促進される。

3. 地域・社会課題の解決とイノベーションの創出との関連性

 顧客のニーズをとらえることや、環境負荷低減といったマクロの課題に対応することが、 イノベーションの創出においては重要であり、イノベーションの創出と(地域や社会)課題 の解決とはセットになっている。
 地域の中核的な企業の存在が、デジタル化や環境負荷低減といった普遍的な課題の解決に貢献するとともに、イノベーション創出を通して地域の経済活性化の起点としての役割を果たしている。

以上

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