c)中小企業と大学等との連携に伴う問題
1)情報不足(連携に関する情報全般の不足) 中小企業は、研究者や研究課題の情報、誰に相談すべきか、その手続き・手順、補助金獲得手続き等に関する情報が不足しているという問題である。「地域の濃密なネットワーク、距離的近さによって情報の速度、密度を上げる」、「連携にとって『意味のある地域設定』を行うことで、連携先を確保し、ニーズ・シーズ情報の充実に努める」、「地域で取り組むことで、地域に情報が集約され、さらに整理・発信されて情報が必要な主体に行き届かせる」、「コーディネーターによる情報不足の解消」の四つの取組が見られた。「地域」については、企業や大学の連携のバリエーションを広げるため、行政区分を超えた地域を設定していた。
2)利害の不一致や不確定性
経営成果を生み出すことが目的の企業と、研究者としての業績・声望を目指す大学の研究者の立場の違いに起因する利害の不一致や、タイムスパンの違いによる不確定性の問題である。地域では、「地理的な近さに基づくコミュニケーションを土台とした信頼関係の構築」、「コーディネーター支援による利害のすり合わせや不確定性の除去の取組」、「テーマ・方向性を共有することで、事前に利害のすり合わせを実現」するという三つの取組が見られた。
3)ルールや契約、知財の扱い
実態に即し、産学連携を阻害しないルールや原則の明確化が必要となっているという問題である。コーディネーターが中小企業と大学の間の契約をオーダーメイドで作成していたり、お互いが納得できる内容に整えたりする取組が見られ、「コーディネーターの支援が重要」な役割を担っている。
4)必要な資金の調達
中小企業には資金制約があり、自己資金で全てを負担することには限界があるため、調達方法が問題となる。地域では、解決されているとまでは言えないものの、「補助金獲得の手続き等を地域でサポート」することで資金調達支援を行っていたほか、「金融機関による地域ファンド組成等による資金調達の円滑化」といった取組も見られた。
5)連携事業の運営(と企業の主体性・コントロールの必要)
連携事業の運営に関する問題である。「コミュニケーションの促進による個人的関係が強化に基づいた双方のコミットメントの深化」、「交流会や補助金申請書作成作業を通じた中小企業の主体性の醸成」、「コーディネーターによる運営上の問題のサポート」という三つの解決に資する取組が見られた。
d)中小企業の経営と行動、ガバナンスに伴う問題
1)経営資源制約と既存部門との摩擦・抵抗
制約のある経営資源の転用において、適切な対処を欠くと既存部門からの不満で企業の存在基盤を揺るがしかねない事態となる恐れがあるという問題である。地域では、コーディネーターによる申請書作成支援を通じて、内容を明確化することで、「社内における産学連携の位置づけの明確化」が図られていた。また、地域において産学連携組織、ネットワーク組織の存在が認知されていることが、社内の説得材料となっている面もあるようである。
2)専門人材の調達
中小企業には、連携において研究開発を担っていくための人材が不足しているという問題である。地域では、「地域の学生やポスドクの活用」、「現場人材の教育・定着策による専門人材の調達」の二つの取組が見られた。
3)研究開発マネジメントの追求
産学連携を含めた「研究開発マネジメント」の考え方とそれに即した投資計画や事業見通しを持つことができるかという問題点である。TAMA地域では、産学連携を行った企業による講演会等を実施し、成功体験を共有しながら中小企業に「産学連携を主導していく」という意識を醸成していた。
e)まとめ
調査対象地域では、産学連携の各問題点を克服しようとする取組があったが、問題の領域ごとに取組度合いに差が見られた。例えば、「中小企業と大学等との連携に伴う問題」については、地域でネットワークを構築するなどといった取組が見られた一方、「中小企業の新技術開発と事業化に伴う問題」、「中小企業の経営と行動、ガバナンスに伴う問題」については、有効とみられる対策が各地域でとられているものの、依然として困難が残っている状況もあった。 |