①生産機能を求める動機
従来は、販売先からのコストダウン要請に対応することを主目的として生産機能を海外に求める事例が多かったが、本調査で把握した事例では、必ずしもコストダウンのみを目的としていないことがわかった。
a)より付加価値の高いモノづくり
従来は、進出先国の技術レベルに合わせて付加価値が高くない製品を生産する企業が多かったが、本調査では、工場設備の工夫や教育の徹底によって、日本国内と同じかそれ以上に付加価値の高い製品を低コストで製造している事例が見られた。
b)1カ国生産によるリスクの分散
1カ国で生産するリスクに着目して、複数の国に生産拠点を分散させようとする企業が該当する。チャイナ・プラス・ワンに代表されるような、途上国特有のカントリーリスクを避けるための取組があったほか、日本のリスクを回避する取組も見られた。先般の東日本大震災を受けて、製造業の大企業を中心にリスク回避のためサプライチェーンを複数構築する動きも見られるが、このような取組を行う中小企業の先例といえる。
c)顧客サポート体制充実
競争力維持のため、海外に分散している既存の顧客へのサポート体制の充実を目的とした海外展開である。事例では、メンテナンス機能、生産機能を併せ持つ拠点を設置し、現地の技術者を育成してアフターサービスを提供したり、顧客の要望に合わせて商社がメーカーに業種転換し、現地生産を開始するといった企業が見られた。
②販売機能を求める動機
従来と異なり、既存の取引関係を前提とせず、日系企業と国内とは異なる取引関係の構築を狙ったり、現地企業、現地消費者といった新規顧客の開拓を狙う企業が見られた。また、これまで海外での販売に適していないと考えられていた日本文化関連の製品を取り扱う企業も見られた。
a)現地での売上拡大
既存の取引先への追随ではなく、海外において日本国内とは異なる取引関係の構築を主目的とした海外展開である。
b)新たな顧客層開拓
これまであまり注目されていなかった顧客層の開拓を目指した海外展開である。日本企業が開拓できていなかった地域の地場企業への販売に成功した企業や、BOP層の開拓を目指す企業が見られた。
c)日本文化関連の製品や商品の販売
日本人の海外居住が進んだことや、日本文化に関する興味が深化したことに着目する、いわゆるCool Japan関連の製品・商品を扱う企業が該当する。扱う商品や製品の例としては、日本アニメ文化や日本食文化、日本独特のファッション文化等が挙げられる。本調査では、海外での販売に適していないと考えられていた日本固有の文化に基づく製品・商品を海外で販売する企業が見られた。
③人材・研究開発機能を求める動機
従来はあまり見られなかった、人材の確保や研究開発の機能を海外に求めるという動きが見られた。
a)人材の確保
国内では新卒学生等の大企業志向が強まり、優秀な人材の確保が困難になりつつあるといわれており、事例の中でも、IT業界では国内におけるソフト技術者の採用が厳しくなっているという指摘があった。このような流れを受けて、自社に必要な人材を日本国内ではなく、海外に求める企業が現れている。
b)研究開発の強化
製品開発のための最先端のノウハウの取得を目的として、海外の大学や企業との提携を行う事例が見られた。自社で開発した製品の理論的裏付けを得て有利に販売を進めるために共同研究を行うケースや、自社製品を用いて他分野の研究開発を行うケース等が挙げられる。
④多様化する中小企業の海外展開の動機
これまでの中小企業における海外展開は、生産機能や販売機能の獲得を目指したものが圧倒的に多かった。さらに、海外進出を行う国内の取引先大手企業に追随するケースや、国内における販売先維持のために、コスト削減を動機として海外展開を行うことがほとんどであり、「既存の取引関係」が大きなキーワードであった。
ところが、本調査における中小企業の海外展開事例の分析結果からは、必ずしも「既存の取引関係」を前提とせず、各社の独自の戦略・取組に基づいた多様な動機による海外展開の動きが明らかになった。 |