小規模事業所でも採用実績が予定数を上回った企業は少なからず存在する。インタビュー調査の結果によると、彼らは地元の大学や高校などをこまめに訪問し、就職指導担当者とのコネクション作りに成功した点を採用確保の理由としてあげている。もちろん、こうしたコネクションが一朝一夕に築けたわけではない。ある企業では狙いを定めた学校に毎月通うことでお互いの信頼関係を築き、また別の企業は数年前の就職難の時に採用を継続した経営者の英断が信頼関係の礎となっている。これらの企業では、毎年学校側から学生受け入れの打診があり、優秀な生徒が推薦されてくるという好循環が生まれている。学校は採用実績のある企業を優先するため、新規の参入は難しいが、経営者の努力と熱意次第では有望な人材確保のチャネルとなりうる点は注目すべきであろう。
⑥インターンシップ制度も1つの選択肢
最近、大手企業を中心に普及しつつあるインターンシップ制度だが、アンケート結果によると、新卒採用活動の一環としてインターンシップ制度を活用している中小企業は少ない(採用活動した企業の17.5%)。また、有効性に対する評価も「役立った」と回答したのは、その2割にとどまっており、中小企業では同制度がうまく機能していないことを示唆している。中小企業にとってインターンを受け入れる負担が大きい一方で、必ずしも採用に結びつかないことが背景にあるようだ。また、仕事が厳しいなど学生の評価が低いとかえって評判が悪くなり、採用活動の足かせになりかねないと懸念する企業も多い。
ただし、インターンシップ制度は、就業体験を通じた学生の職業意識の向上だけでなく、会社にとっても業務内容や経営者の経営理念、中小企業の魅力を学生に知ってもらうための良い機会である。八王子市や東大阪市など中小企業が集積する地域では、産官学が連携したインターンシップ(日本版デュアルシステム)制度を導入し、新卒採用の確保に結びついている。これらの地域では、将来の担い手不足に危機感を抱く企業経営者と、学生の職業意識の向上を図りたい学校、地域産業の振興を期待する行政が強固な信頼関係に基づき、インターンシップ制度を運営している点が成功の原動力となっている。
中小企業でインターンシップ制度が利用されていないのは、制度上の問題というよりも、運用面の問題が大きい。都内のある大学では、運用面の課題を克服するため、地元商工会議所の協力を得て学生の受入先企業の育成というユニークな取り組みを行っている。商工会議所が受入先企業を推薦し、教職員が各企業にあった独自の研修プログラムを策定、学生を送り込むという仕組みだ。受入側企業の負担を軽減するとともに、企業と学生の双方にとって本当に役立つインターンシップ制度を提案し、継続的な受入先企業確保と実際の採用増加に結びつける狙いがあるという。学校側にとっては、商工会議所の推薦というお墨付きをもらうことで派遣先企業のフィルタリングができるというメリットもあるようだ。取り組みは始まったばかりであり、その評価についてはもうしばらく状況を見極める必要があるが、工夫次第でインターンシップ制度が中小企業にとって有力な採用ルートになる可能性は十分にあるのではないだろうか。
⑦希薄化する学生の就業意識。学校の人材供給力低下も一因
これまで中小企業について採用活動の改善点を指摘してきたが、学生の大企業志向など企業努力だけでは限界があるのも事実である。学生の大企業志向については、もちろん企業側の情報発信に関する取り組み不足という側面があるものの、学生の就業意識の希薄化の影響も無視できない。大企業志向の高まりは、明確な就業意識(判断基準)を持っていない学生が、企業規模や知名度で企業を選択する結果とみることもできるからだ。就職担当者の話によると、明確な目的意識をもって就職活動に臨む学生は少数派で、多くは就職活動という行事に参加しているだけというのが現状のようだ。その結果、複数の内定をもらう学生がいる一方で、どの企業からも内定を得ることができず卒業間際まで悪戦苦闘する学生も多いという。
学生のアンケート調査では、約6割の学生が「企画・管理」を希望するなど、「営業」や「生産」など現場のニーズが高い企業と学生の意識の間で大きなギャップがみられた。また、中小企業の就職について8割の学生が「抵抗感はない」と回答しているが、その理由をみると、「やりたいことがすぐできそう」や「中小企業だったら企画部門に行けるから」、「出世できそう」など安易な発想(誤解)に基づくものが散見され、学生のイメージが一人歩きしている感が否めない。また、企業からは最低限の常識やマナーさえ身についていない学生が最近増加しているとの指摘もあった。これらは、学生個人の問題であると同時に、学校における就職支援活動のあり方に見直しを迫るものといえる。学校は現実を直視し、就職希望者に対してさらにきめ細やかな就職支援活動を実施する必要があるように思われる。
3.中小企業の新卒採用戦略に対する含意
これまでの調査結果より、中小企業を取り巻く採用環境は厳しいものの、少しでも優秀な人材を確保すべく努力している企業が多く存在することが明らかになった。学校との関係を強化する企業もあれば、学生への情報発信強化を図る企業、Uターン希望者に焦点を合わせた採用活動を行う企業など各企業の対応は様々だが、人手不足に対する経営者の強い危機感がその背景にある点はみな同じである。彼らは、大企業が採用枠を広げる中、決して諦めることなく、中小企業ならではの工夫をこらして人材確保に成功している。中小企業の中には、人手不足から将来的な事業拡大はもとより、事業継続さえ困難となる可能性がある企業も少なくない。こうした企業は厳しい現状を嘆くだけでなく、人材確保に成功している企業を見習って、継続的に新卒採用の努力をする姿勢が必要だろう。
具体的な採用活動については、先に指摘したとおり①就職情報サイトへの掲載や②自社主催の説明会開催、③学校訪問が有効な手段と考えられる。いずれも学生や就職担当者へ直接情報を提供することが最大のポイントだ。調査結果によると、学生の中小企業に対する抵抗感は小さいものの、将来性や労働条件に対する不安が就職を躊躇させる要因であることが示された。情報提供を通じてこうした不安を払拭することができれば、中小企業の採用環境は大きく改善する可能性が高いと考えられる。むしろ「やりがい」や「親近感」など中小企業ならではの対応が採用に際して大企業よりも有利に働くことさえあるかもしれない。中小企業のこうした強みを活かすためにも、積極的な情報提供が不可欠である。
また、中小企業の実情を学生に理解してもらうという点では、インターンシップ制度の活用も選択肢の一つである。現状では制度の運用面で企業側の負担が重いことから普及には至っていないが、先進事例にみる通り、学校や商工会議所、自治体が連携して協力すれば、制度本来の目的を達することは十分可能である。八王子市や東大阪市の取り組みを参考に、地域の事情に応じた協力体制が築けるかどうかがインターンシップ制度の普及を占う上で試金石となろう。
もちろん、中小企業が大企業と同じ採用活動をしていたのでは大企業にかなうはずもない。大企業との競合を避けるべく、採用活動時期の多様化(柔軟化)や地元志向の強い学生への重点的なアプローチ、自社の組織風土にあった学生(学歴、専門)の採用、特定の学校との関係強化など中小企業ならではの(小回りがきく)取り組みが欠かせない。こうした取り組みに加えて、商工会議所や地元自治体が中小企業の採用活動を支援する仕組みも必要だ。実際、商工会議所が仲介することで中小企業に対する信用補完(不安感の低減)の役割が期待できるとの指摘があった。インターンシップ以外でも産官連携を図る余地はありそうである。
最後に、アンケート調査を見る限り、中小企業は新卒採用よりも中途採用(即戦力)を重視する傾向が強いように見受けられる。欠員補充を迅速に行うためには中途採用でしか対応できないものもあるかもしれないが、継続的な新卒採用が学校との関係を深め、それが優秀な学生の確保につながる点は注目に値する。新卒採用した場合の教育訓練負担は中小企業にとって決して軽くはないものの、少子高齢化がさらに進むことが確実視される中で、経営者は中長期的な視点にたった採用戦略の策定が求められるようになっているのではないだろうか。