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調査研究報告書

商店街活性化戦略と外部資源活用
(1)研究の趣旨
 社会の全般的変化と交通・通信手段の発達、生活様式の変化、規制緩和等によって、既存の「商店街」は顧客減少と売上不振に悩み、将来に大きな不安を抱えている。大部分が家族経営に依拠してきた中小商業側では廃業が相次ぎ、既存商店街では「歯抜け現象」が生じて、地域の魅力が低下し、経営の困難が増幅する悪循環に陥っているところが多い。
 こうした困難に対し、国や自治体もいろいろな法律的枠組みを整備して支援策を講じてきたが、こうした仕組みからの成果は未だ乏しく、閉塞感は強い。しかし、このような厳しい環境下でも、打開策を図っている商店街生き残り戦略の実践例がいくつも報告されている。
 こうした最近の事例の特徴の1つは、商店街の経営努力だけでなく、地域社会を含めた様々な関連主体との積極的つながりの追求と外部資源の積極的活用を、商店街の経営革新につなげようとしている点にある。
 本調査研究は、外部の主体と資源との新たな関係作りとそれによる自己革新、商店街と地域社会の総合的な再活性化戦略を実践してきた16地域の事例を調査し、その特徴を明らかにして、商業集積活用とまちづくり、地域社会問題への政策に関して、具体的な提言の手掛かりを示すことを目的とした。
(2)研究の概要
◎商店街の厳しい現状と打開への道――地域社会との共存
 日本の小売商店数は1982年の約172万1千店をピークに、85年に初めて▲5.4%減少した。以後一貫して減少が続いており、過去20年間の減少は42万店(▲24.5.%)に及んでいる。この減少は商店街での構成割合が高い小規模店によるところが大きく、事業承継・後継者に問題を抱える小規模商店が多いため、今後も商店数の減少は不可避な状態にあると予測される。
 こうした状況の打開には、商圏である地域社会との共存を視野に置いて、大型店にはない中小商業の生業性や土着性を強みとしながら、その存在意義を発揮する戦略が商店街全体としても、個店としても不可欠と考えられる。その場合、地域社会が抱える構造的な課題を協働して解決する担い手として外部資源の活用を図ることが必要である。
 この場合の外部資源は、ヒト、モノ、カネ、情報だけでなく、様々な事業活動、イベント、人的な集まり等、それぞれの志向が相当に異なりもするいろいろのものを含んでいる。そうした一見バラバラの方向にあるものが結果として同じベクトルを向いた時、その最大公約数が「まちづくり」となり、その構成要素である「商店街のにぎわい」にも、さらに「中小商業の存続」にもなっていく。商店街活性化で活用される資源は、経済合理性を超えた、幅広いヒューマンネットワークが重要である。また、ある部面で利用され成果を生んだ資源は、また別の主体の下で別の役割を果たしもする。資源は循環するのである。地域の活動源となるこの「資源循環」により、商店街の活性化もなされるのである。この流れを全体として支えるプラットフォーム(多様な主体がパートナーシップを組んで交流する場を言う)を形成することが、今後、各関係者が積極的に目指すべき目標と位置付けられる。

◎調査事例にみるまちづくりと商店街活性化への取組み
 調査事例にみる商店街活性化やまちづくりに関係する主体を13に分類し、主体別に取組みの内容、特徴等を後記付表のように整理した。
 こうした各事例の商店街活性化に向けた活動で注目されたことは、商店街が彼ら自身の資源だけでは十分な効果をあげられないことを自覚し、新しい関係主体との協働・連帯を求める姿勢があることであった。さらに、売上増といった目先の目標に拘らず、「地域が活性化してこそ中小商業は生かされる」という姿勢を概して明確にしていることであった。

◎取組みの特徴の分析とその性格づけ、及び諸問題への対応
 各地域の取組み内容は様々で、1つのコンセプトや形態にはまとめきれないが、4つのキーワードとの位置付けで考えると理解しやすい。(1)担い手=「主体」→商店街のリーダーの高齢化で世代交代・人材育成が差し迫った課題である。他方、地域社会においてサラリーマンや主婦層が新しい「主役」としてその役割を拡大させており、こうした人材との交流と協働の中で鍛えられていくことが、まちづくり・商店街活性化の人的資源の形成モデルとなる。(2)多様性→既存の枠組みと関係を超えた、さまざまな外部資源と主体、それらの多様な関わり方が創造性・革新性の源であり、商業集積の新たな発展の原動力をもたらす。(3)協働→これらの多様性をもとに、共に働き、その成果を分かちあう経験の蓄積が重要である。(4)資源循環→広義の資源が、自由でインタラクティブな関係の上で往き来し、それぞれに活用され、また更に多くの資源の動員活用を可能にしていく。――商店街活性化には、こうした「ソフトな事業ないし活動」に加え、ハード面での環境整備や設備投資も必要不可欠である。ハード面の対応には商店街を構成する中小商業者も相当の負担を求められるが、行政の財政負担も引き続き必要であり、地域の実情や課題に沿った、柔軟かつ総合的な対応が重要である。
 また、今回の調査で明らかになったその他の問題点とその対応策には次のようなことが挙げられる。(1)商店街組織非加盟店舗(テナント化した大手チェーン店の支店等)の存在→組織参加への粘り強い働きかけとともに、具体的な魅力ある商店街事業を広げて非加盟店を巻き込んでいくことが重要。また、自治体がアウトサイダー店の商店街組織参加等を促す条例を提案するところも現れている(例:東京都世田谷区)。(2)「オーナー化」と地域のイメージ・景観・特性維持の問題→廃業し、自らはオーナーとしてテナントに店舗・建物を貸すケースが増え、避けて通れない問題となっている。商店街組織とは別にオーナー会を組織し、入居テナントの選定等に影響を及ぼし、風俗店の入居といった事態を阻んでいる事例が見られた。
 なお、(3)「空き店舗対策事業」についてはかなり否定的な反応が見られた。立地条件がよくないため空き店舗化している例が多く、行政施策に乗せて、店舗誘致や施設運営に当ってもうまくいかない等の問題があるためである。こうした場合、公共施設の設置や、NPO、ボランティア組織やコミュニティビジネスの活用を推進して、既存の商業集積に新風を吹き込み、全般的な地域の魅力向上と集客力強化を図る方が効果的と考えられる。

(3)結 び
 商店街は都市の主要な構成要素の1つであり、そこの商業者は一市民として暮らしやすいまちづくりに積極的に貢献することが期待されているわけで、商店街と都市、及びまちづくりの3つは相互関係にある。こうした関係の下で、閉塞状態に陥った商店街に活路を見出すには、過去の柵に拘束されない新しい発想と新たな血を入れた新しい感覚の商店街活動を啓発していく必要があり、外部資源の積極的活用が必須である。調査事例でも、商業者の商業者による商店街のための商店街活動という発想とは対照的な取組みが実施されている。地域社会の構造的な問題を地域産業の主要な担い手である商店街が戦略上の機会ととらえることが活性化に向けた重要なポイントで、まちづくりの中に商店街の活性化を位置付けていくことが必要である。
 政策的含意も入れて整理すると、商店街再生のために必要な今後のシナリオは以下の6つになる。(1)個店のマーケティング力の強化と、大型店との差別化の徹底。(2)顧客の立場で作成するHP等のツールを活用した情報発信力の強化。(3)集客力のある「マグネットショップ」の配置または誘致による集客力の向上。(4)交通アクセスの改善。(5)土地利用をコントロールし、まちをマネジメントすることの必要性。(6)外部資源を商店街に取り込んで、商店街の再活性化に活用する視点の必要性。また国や自治体の施策も厭わずに活用することを考える事も重要である。
 まちづくりと商店街活性化のシナリオを描く場合、商店街は自らを地域社会を構成する主体の1つと位置付けた上で、商店街がまちのプラットフォームとなって外部資源がそこで循環するサイクルを作ること、その過程で商店街がこれらの外部資源の一部を取り込んで、活性化の一助となるようなシステムの作ることが重要である。その場合、まちづくりと商店街活性化を取り持つ中間組織として、将来的には、TMO(タウンマネジメント機関)に代わるまちづくり機関として中立的で新たな主体(任意団体でなく、営利性と機動性のある株式会社であることが望ましい)が地域に1つ確立されることが必要と考える。中心市街地活性化法の下で、多様な地域ぐるみの商店街活性化策実施の軸として期待されているTMOには、行政によるイニシアティブの不足や専門性を持って事業を推進するリーダーの不在、事業と重点化に向けたコンセンサス形成等の問題に加え、事業遂行能力に関しても、収益性のない調整業務が多い上、業務内容も多岐にわたるためノウハウの蓄積が進まない、国の間接補助金が多く、自治体の財政難で活用できないケースがある等、種々の問題点があるからである。
 商店街が地域社会から信頼され認知される中で、商業者は商機を見出し、自らの匠や専門性を強化しマーケティング競争力を向上することで、次代を担う人材を輩出できるような商店街再生のシナリオが実践されることが期待される。
(付表)調査事例にみるまちづくりと商店街活性化への取組み
関連主体 取組み内容と商店街の例
(1)商店街自身
内部資源活用による活性化に取り組めるパワーある商店街。必要に応じ、外部資源も活用。
◎ 川崎小田銀座→ モール建設とコミュニティセンター開設。多機能型カード導入による顧客の固定化
◎ 吉祥寺サンロード→ 駅周辺商店街や大型店、金融機関、鉄道会社等との協働による活性化対策、アーケード・カラー舗装の改築
◎ 世田谷烏山駅前通り→ 全国に先駆けたスタンプ事業、ショッピングプロムナード整備
◎ 静岡呉服町→ モール化事業、一店逸品運動、大道芸ワールドカップ等のソフト事業
(2)商店街有志・専門部
商店街有志・専門部を中心に特徴ある事業で活性化に取り組む。
◎ 足立区東和銀座→ 有志出資による(株)アモールトーワにより地域社会の問題解決のためのソリューション型ビジネスを展開
◎ 水戸泉町二丁目→ 季節の食品や地元農家出品の新鮮な野菜を販売する「新鮮市」の開催
◎ 富山中央通商栄会→ 空き店舗活用のチャレンジショップ、フリークポケットが成功
◎ 世田谷区明大前商店街→ 自警会結成による安全・安心のまちづくり
(3)商工会議所との連携
会議所職員の市民との協働が成果を上げている。
◎ 豊後高田→ まちの歴史を徹底調査し、「昭和の歴史」をマーケティングしたまちづくり
(4)専門家との協働 中小企業診断士等、外部の専門家の指導による活性化への取組み。
◎静岡市呉服町、◎水戸泉町二丁目、◎吉祥寺サンロード、◎川崎小田銀座商店街  (いずれも再掲)
(5)市民の力を借りた取組み
まちの中心街を地域活動のプラットフォームととらえ、市民にまちづくり活動に参加してもらう。
◎ 滋賀県長浜の(株)黒壁→ 第三セクター方式で市の象徴である明治時代の建物を活用。長浜では他にも行政と連携しつつ民間主導で事業展開するNPO法人による取組みもある
◎ 北九州筑豊商店街→ 地域社会との関係性を模索し、訪問介護ステーションと連携した要介護者の買い物代行。体験型事業を通じた子供たちとのふれあい
◎ コムネットQ→ 前橋市民をコア・メンバーに発足。市民にとり大事な場所である中心市街地再生を支援。必ずしも商店街の支援が目的ではないとして、多岐にわたる活動を展開
◎ まちづくりとやま(株)→ 富山市と地元企業共同出資の第三セクター形態のTMO。市民のアイデアを取り込み、チャレンジショップ事業等を実施
◎ 世田谷区明大前商店街 (再掲)
(6)大学生との連携
地域への貢献を考える大学を資源の1つとして積極活用。
◎ 高知TMO→ 街中に市民を取り込む戦略で多様な事業を展開。女子学生が中心市街地での清掃や商店街情報の提供等を通じて来街者を手助け。空き店舗利用のチャレンジショップ等
◎ まちづくりとやま(株)→ (再掲)
(7)NPOとの連携
商店街とNPOの関係をどう位置付けるかが課題となる場合もある。
◎ 千葉ゆりの木商店会→ NPO法人から紹介された地域通貨を活用した人と人との交流機会の醸成
◎ NPOコミレスネット→ 四日市市本町通り商店街の空き店舗を利用、日替わりで調理人が代わるコミュニティレストランを運営
◎ NPO法人びーのびーの→ 横浜菊名駅西口商店街で広場型子育て支援施設を運営
(8)自治会等との連携 ◎北九州筑豊商店街(再掲)
(9)大型店との連携 大型店との連携により商業集積も魅力向上を図る。
◎吉祥寺サンロード、◎静岡市呉服町 (いずれも再掲)
(10)金融機関との連携
◎ 吉祥寺サンロード(再掲)→ 近くの銀行が駐車場を週末の駐輪場として開放。信用金庫の会議室利用による「生活教室」開催
◎ 世田谷烏山駅前通り(再掲)→ スタンプ事業でスタンプの販売と回収の一部を地元金融機関に委託。金融機関側も預金獲得にスタンプを利用
(11)医療・福祉団体との連携
少子高齢化やバリアフリー対策等に積極的に対応。商店街と外部組織の橋渡しをするネットワークが鍵となる。
◎ 川崎小田銀座(再掲)→ 地元医療機関による健康相談実施
◎ 高知市おびさんロード商店街→ 商店街が託児・ベビーシッター派遣業者に業務委託し、空き店舗を活用した託児所を開設
(12)小中学校・高等学校との連携
◎ 川崎小田銀座→ 地元小学校と連携、商店街のコミュニティセンターで小学生に商店街の歴史を話したり、商店での体験学習に協力
◎ 水戸泉町二丁目(再掲)→ 地元の中高生が課外授業として商店街の体験型イベントに参加
(13)行政による取組み 商店街振興は行政の産業分野の中核事業であり、今回調査対象の多くが行政の直接・間接の支援を期待している。新たな法体系である市街地活性化関連事業の国の予算は毎年1兆円を超える規模になっており、市とTMO等の活性化推進組織が手を挙げれば非常に多彩なメニューが利用可能である
以上
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