再生可能エネルギー産業における中小企業の動向と展望
1. 調査の背景・目的
再生可能エネルギーは、政策の中で戦略分野として位置づけられると共に、2020年には、その市場規模は86兆円になると予測されるなど、国内外で成長の機会が得られる産業の一つであるといえる。
その中で、中小企業の動向を見ると、発電事業に取り組む事例や、部品製造に参入するといった動きもある。このほか、発電・製造のみでなく、建設や販売、メンテナンス等の企業も関与しており、再生可能エネルギー産業は裾野が広い。再生可能エネルギー産業の立ち上がり、成長によって、中小企業にビジネスチャンスが広がっている。
そこで、本調査研究では、再生可能エネルギー産業に中小企業が取り組む上で参考となるよう、再生可能エネルギーの現状を概観すると共に、高い成長性が見込まれる太陽光発電・風力発電・地熱発電を対象として、産業の構造や中小企業の動向等について調査を行った。 |
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2. 調査方法
(1)文献・資料調査
既存の統計や文献を用いて再生可能エネルギーの現状について概観し、太陽光発電・風力発電・地熱発電を対象として、産業構造等について調査を行った。 |
(2)インタビュー調査
再生可能エネルギー産業に取り組む中小企業9社、大企業3社にインタビューを実施した。 |
3. 調査結果
(1)再生可能エネルギーの現状
①再生可能エネルギーとは
再生可能エネルギー(Renewable Energy)とは、一度利用しても資源が枯渇しないエネルギーを指す。太陽光発電、風力発電、中小水力発電、地熱発電、バイオマス発電、波力発電・潮流発電・海水温度差発電などの海洋エネルギー、空気熱利用・太陽熱利用等が該当する。
②再生可能エネルギーの意義
日本における再生可能エネルギーの意義は、「エネルギー安全保障の確立」、「温室効果ガスの削減」、「新たな関連産業・雇用創出、地域活性化」の3点である。
③再生可能エネルギー普及支援策・制度
日本の再生可能エネルギー普及支援策は、1992年から導入されてきたが、太陽光発電以外の再生可能エネルギーの導入が進まなかったことから、2012年7月より再生可能エネルギーを利用して発電した電力を、一定の期間、一定の価格で買い取ることを電気事業者に義務づける「固定価格買取制度」(Feed in Tariff、以下FIT)が導入されている。
④再生可能エネルギーの導入状況と特徴
再生可能エネルギーを利用した7つの発電方式(太陽光、風力、地熱、太陽熱、海洋エネルギー、バイオマス、中小水力)について導入状況と特徴を概観した(図表1)。 |
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(2)再生可能エネルギー産業における中小企業事例
再生可能エネルギーに取り組む中小企業9社(表2)、大企業3社(シャープ株式会社、日本精工株式会社、出光興産株式会社)へのインタビュー結果を紹介するとともに、既存文献等における中小企業事例を紹介した。 |
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(3)再生可能エネルギー産業の構造と展望
①太陽光発電 |
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太陽光発電システムの製造は、太陽電池モジュールとその他電気設備、架台の製造とそれらを統合して発電システムとするパートに分けられる。太陽光発電システムの設置は、住宅用はハウスメーカー、非住宅用はゼネコンや重電メーカー、エンジニアリングメーカーが中心に行っているほか、各地の配線関連・工事・施工業者が主に協力企業として関わっている。なお、設置に当たっては、事前の調査や企画が必要であり、ゼネコンや重電メーカー等が自社で行うほか、住宅向けの販売代理店や専門のコンサルティング会社が手掛けている。発電事業主体は、住宅用では個人、非住宅用では、一般企業や独立系発電事業者(IPP)、電力会社、官公庁の参入も見られる。このほか、維持・管理(O&M)業者や金融機関・保険会社等も関わっている。
市場規模推計では、2020年時点の導入量は2013年時点と比較して大きく減少し、国内のみであれば製造/建設・設置の分野では2013年度比で3分の1程度の市場規模に縮小する可能性がある。
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②風力発電
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風車の製造は、風車メーカーを頂点として、自動車産業と同様一次サプライヤー、二次サプライヤー、三次サプライヤーと体系化されたピラミッド構造のサプライチェーンとなっており、多くの電気機器と精密な機械部品から構成される広範なすそ野が形成されている。風況調査や環境影響評価には、専門コンサルタントやエンジニアリング会社が関わっている。この実務を担っているのは地場の企業であることが少なくない。風車の建設も、道路工事や基礎工事、電気工事などの各種工事は建設会社やゼネコンが元請となり、地場の建設会社が実際の工事にあたっている。維持・管理は、風車は比較的故障頻度が高く、壊れたらすぐに対応できる体制を整える必要があり、地場の企業が担っていることが少なくない。
現在、風力発電設備の導入が停滞しているが、2020年時点の陸上風力の導入量は現在の14~24倍程度になると予想され、企画・調査や製造/建設・設置の市場は大きく膨らむとみられる。また、維持・管理の分野でも現在の3倍~4倍程度まで市場が拡大するとみられる。一方、洋上風力は製造/建設・設置で3~4倍程度、維持・管理で1.3~13倍程度となると予想される。
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③地熱発電
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発電事業者を中心に初期調査や地下探査・評価を行う地熱コンサルタントやメタルコンサルタント、発電所建設を行うゼネコンや建設会社、セパレータの製造や配管等の設置を行うプラントエンジニアリング、生産井・還元井の掘削を行う掘削業者、融資を行う金融機関、売電先の電力会社等、発電所のメンテナンスを行う事業者といった企業で構成されている。これまで電力会社が主な発電事業者であったが、FIT導入以降、地熱発電事業向けに部品提供を行っていた企業などさまざまな企業が発電事業者となるべく地熱調査を開始している。したがって、今後は、発電事業者の事業領域によって、発電所建設や配管等の設置など垂直統合に似た形が出てくるとみられる。なお、地熱発電は、蒸気でタービンを回すという点において火力発電に類似しており、発電設備等の産業構造は火力発電と同様といわれる。
2020年時点の市場規模推計では、発電、企画・調査、製造/建設・設置、維持・管理の中では、維持・管理が最も大きな規模となっているが、大半は既存の地熱発電所における維持・管理業務であり、新たな市場は拡大し始めた段階である。一方、小規模発電は、2020年時点の発電事業の市場規模が505億円と大規模地熱発電所の発電事業規模より大きくなる。 |
(4)再生可能エネルギー産業における中小企業
①再生可能エネルギー産業における中小企業の動向
それぞれの発電方式における大企業と比較した中小企業の動向をまとめると、図表6のとおりである。
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②インタビュー・文献調査に見られる中小企業の参入パターン
a)外生的な要因
1)既存取引先の引き合により参入
既存の取引先である大企業等が再生可能エネルギー産業に進出する際、その取引先であった部材メーカーや設備メーカーに声を掛け共同開発、製品の製造を実施するケースが見られた。中小企業にとっては、既存の取引先からの引き合いを受けているため、一から販路開拓をする必要がなく、製品開発のみで済むというメリットがある。もちろん、大企業の求める品質を提供する必要があることから、これまでの実績や技術レベルが高いことが前提となる。 |
2)実績や技術を見込まれ、新規取引先からの引き合いにより参入
自社の技術または製品が再生可能エネルギー産業に関連性のある技術であるとは考えていなかった中小企業が、想定していなかったところから声が掛かり、参入を果たすケースが見られた。こうした企業の中でも、自社技術をそのまま利用する形で比較的容易に再生可能エネルギー産業に参入したものと、仕様に応えるため新たに試行錯誤をして製品の開発を実施したものに分けられる。 |
b)内生的な要因
1)自社の保有する既存ノウハウを再生可能エネルギー産業に応用して参入
従来から取り組んでいる分野で高い技術を有している企業が、再生可能エネルギー産業において需要があるのではないかと考え、再生可能エネルギー産業に沿う形で自社技術を積極的にカスタマイズして市場に参入したケースが見られた。 |
2)自社で新たにノウハウを確立して参入
大学発ベンチャー企業として、大学での研究成果を製品化・販売するケースや、経営者が再生可能エネルギーに対する熱意を持ち参入したケースなど、新規事業として自社で新たにノウハウを確立して再生可能エネルギー産業に参入しているケースが見られた。 |
③インタビュー・文献調査に見られた中小企業の取組の特徴
a)海外企業との連携・交流
社内リソースが限られている中小企業では、再生可能エネルギー産業で成功を収めるために外部のリソースを巧みに活用することが必要となる。外部リソースを活用する中でも、海外で発展を見せた再生可能エネルギー産業においては、海外企業・人材との連携・交流を図る中小企業が見られた。 |
b)産学連携
中小企業は、企業と大学という垣根を越えて早くから産学連携を実施しており、中小企業にとって産学連携は、新技術の開発・事業化・イノベーション能力の獲得という意義がある。環境技術として大学で盛んに研究がなされている再生可能エネルギーも例外ではなく、大学等の研究機関の知を活用して、自社の技術不足を補い製品化まで行う中小企業が見られた。 |
c)地域を中心に据えた取組
中小企業は、都市部よりも地方に占める割合が大きく、さらに、中小企業の経営者・従業員・取引先や周辺の地域社会はお互いに顔が見える関係にあり、中小企業は地域密着の要素が強い。そして、再生可能エネルギー資源は、都市部より地方に多く賦存しており、その面から地域活性化に役立つともいわれている。本調査研究でも地域を中心に据えた取組を行い、地域の活性化を図る中小企業が見られた。 |
d)経営者の強いリーダーシップ
再生可能エネルギー産業は、政策や規制、海外企業の動向などに左右されやすい、動きの速い業界である。しかも、国内では未成熟な産業といえ、ここに進出するために人材や資材を投入することは経営的なリスクが大きい。このような産業にリスクを冒して参入している中小企業には、経営者の素早い意思決定と迅速な行動が不可欠であり、事例企業でも経営者が強いリーダーシップを発揮して参入を成功に導く姿が見られた。 |
(5)本調査研究の総括と今後の展望
①本調査研究の総括
本調査研究の総括として、各再生可能エネルギー産業の特徴を図表7にまとめた。 |
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②再生可能エネルギー産業における中小企業の可能性
再生可能エネルギー産業において中小企業は、産業面、技術面からの期待が大きいとともに、地域のニーズにきめ細かく応えることも期待されており、再生可能エネルギー産業において我が国の中小企業の活躍の余地は大きいとみられる。 |
③事例に見られる成功のポイント
a)事業の芽の早期発見
事業の成功には、自社の技術や実績、販路等を考慮しながら、利益を獲得できる事業の芽を早期に発見し、他社に先駆けて行動することが必要となる。再生可能エネルギー産業は未発達の産業であり、特にこの傾向が強い。多くの企業が自社の要求に合致する製品を提供できる取引先を探しており、顕在化していないニーズも数多く眠っており、独自のアイデアで顕在化していないニーズを掘り起こす必要がある。 |
b)独自性のあるビジネスモデルの構築
再生可能エネルギー産業という先行きの不透明な産業へと参入するためには、自社の知識、情報、能力などの経営資源を顧客価値へと結びつけ、他社が追随することが容易ではない独自性のあるビジネスモデルを展開していくことが必要となる。インタビュー事例でも、自社が保有する強みやノウハウ、ネットワークを使用して、中小企業におけるヒト・モノ・カネの制約を突破し、独自性のあるビジネスモデルを構築している事例が見られた。 |
c)差別化する手段の差別化
再生可能エネルギー産業においては、他社製品・サービスとの差別化もさることながら、他社製品・サービスと自社の製品・サービスを差別化する手段を確立していることが必要となる。これは差別化する「手段」の差別化といえる。再生可能エネルギー産業は、動きが早く国内外で競争が激しい。刻々と変化する状況の中で、顧客のニーズを正確に把握し、差別化を図る手段を確立しておかなければ、長く成功を収めることは難しくなる。 |
④中小企業のさらなる活躍に向けて
a)地域一体となった取組
日本の再生可能エネルギー産業への取組を、現在の点もしくは線の取組から、地域一体となった面的な取組へと発展させていくことができれば、中小企業にとってメリットが大きい。産学連携や産産連携等を比較的スムーズに行うことが可能となり、地域の大学等研究機関の「知」や地域の企業のビジネスの種を活用できるためである。地域が一体となって取り組むことで、再生可能エネルギーの多様な成長機会を捉えていくことが可能となるであろう。 |
b)下流への展開
政策や規制、海外企業の動向に左右されやすい再生可能エネルギー産業特有の不安定さの影響を受けにくい取組をすることが重要となる。具体的には、維持・管理分野への進出が考えられる。維持・管理は、累積導入量により市場規模が決まるため、例え新規導入量が減少したとしても、安定した売上を見込むことができる。特に、再生可能エネルギー産業では、故障の防止や故障時の迅速な対応が重視されるため、維持・管理ビジネスの重要性が高い。 |
c)付加価値を高める新たな視点の導入
中小企業がグローバルの価格競争に巻き込まれないためには、製品・サービスのコモディティ化を避けなければならない。中小企業が再生可能エネルギー産業に継続的に取り組むためには、デザインや他のアプリケーションとの融合などで付加価値を高め、価格が多少高いとしても購入したくなる製品・サービスを提供する必要がある。 |
以上 |
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