(3)結び
今回の調査から明らかになったことは以下のようにまとめられる。 |
(1) |
従来の主顧客・系列の占めるポジション・競争力と経営力の差異がサプライヤ企業の将来見通しに大きく影響してきている。系列にこだわらない新規受注開拓や市場拡大の機会でもあるが、競争優位確保は簡単でなく、サプライヤ毎の業績の開きが顕著になっている。 |
(2) |
サプライヤ企業同士の再編成も進展している。しかし、日本の自動車メーカーは濃淡の差はあれ、欧米的サプライヤシステムとの取引関係にはかなり慎重で、中長期的な関係と協力体制に依然重きを置いている。 |
(3) |
サプライヤ企業の海外事業展開の波は新たな段階に入りつつあり、動きが一挙に加速する可能性がある。これに加われる経営資源と体力を持つ企業とそうでない企業の立場の開きが今後顕著になろう。 |
(4) |
こうした諸条件の変化により、生き残りをかけたサプライヤ同士のアライアンスや海外連携等が進み、新たな取引関係構築を目指す中堅サプライヤ企業と、取引再編の荒波を受け、存続の道を模索する限界的サプライヤ企業といった分化が進みつつある。 |
(5) |
この限界的サプライヤ企業の多くは、サプライヤシステムの第二次、第三次レベルにあり、その安定的な存続は容易ではない。部品共通化やバリエーション限定、発注形態変更等はこのクラスの企業には事業縮小につながるため、中長期的には納入先のグローバル展開への対応や、新規需要新市場開拓等の方向を目指す必要がある。 |
(6) |
サプライヤ企業はいずれも、この大きな変動と再編の時期を新たな受注拡大、顧客獲得の機会ともとらえ、従来の枠組みにとらわれない取引関係を志向しているが、部品の共通化や統合で、特定部品の受注先細りも懸念される。従って、その場合、他産業他分野向けを含めた、営業努力が新たな課題になってきている。 |
(7) |
体力のある自動車部品サプライヤの海外事業展開が再び目立ってきている。しかし個々には、海外事業に慎重なスタンスも見られ、単純なコスト競争力比較だけで、海外生産が有利と見る姿勢には批判的である。その意味では、国内における「残余者利益」を意識した生き残り合戦の様相も考えられる。 |
90年代初めに我が国サプライヤシステムは、「より普遍性を持つバランス型リーンシステムへ向けての転換」すなわち「部品メーカーも収益性を重視し、メーカーも相応の負担を求められる関係への移行」すると予想する研究もあったが、今のところ、メーカー間業績格差の拡大もあり、収益性のアンバランスは広がり、「バランス型リーンシステム」といった様相はうかがえない。また、一部で喧伝されるような部品の「モジュール化」による生産システムとサプライヤ関係が一変するといった様相もない。それはあくまで、共同開発の推進と開発のアウトソーシング化の一環で、従来からの自動車メーカーの占める地位と生産体制を前提とした範囲に留まっている。
結論としては、自動車産業を典型とした「日本的サプライヤシステム」は大きな試練と再編の波にさらされつつも、その優位性効率性を新たな形で引き続き発揮していこうとしている。しかしまた、これを支えてきた多くのサプライヤ中小企業の地位が今後とも安定的に推移することは誰も保証できない。強まるグローバル競争と業界再編の渦中で、新たな戦略展開と独自の技術力強化を図り、個々の存立基盤を強化していかなければ、生き残りの道が容易でないことも間違いない。
なお、自動車の環境対応強化やリサイクル化、将来の代替エネルギー利用・エコカー化等が、今後の生産のあり方や部品供給に大きな影響を及ぼす可能性はあるが、それにはまだ時間がかかるし、自動車という商品の基本的機能・機構が一変するわけでもないため、各サプライヤ企業もこれに対する大きな不安は抱いていない。 |