公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
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調査研究レポート
中小企業の事業承継に関する調査研究〜永続的な成長企業であり続けるための事業承継〜

1.調査の背景・目的
 我が国の総人口の減少、少子化・高齢化の進展により、今後の生産年齢人口は大幅に減少することが予想される。それに伴い企業の代表者も高齢化が進んでおり、1985年から2004年で大企業も含めた全代表者の平均年齢は約5.0歳上昇している。特に、
規模が小さい企業ほど平均年齢が上昇していることがわかる。(図表1)
  代表者の高齢化が進む一方で、事業承継の対応はさほど進んでいない。代表者が60代の中小企業でも約半数(46.3%)が着手しておらず、高齢の代表者においても事業承継への着手が進んでいない状況である 。(図表2)
 次に、承継を実施した企業を見ると、1983年以前では親族外承継が6.4%を占めるに過ぎなかったが、1999年から2000年代前半では38.0%と、
親族外承継の比率が高くなっている 。(図表3)また、親族外承継の方法についても、買収・内部昇格・外部招聘など多様化していることがわかる 。(図表4)
 先行研究や文献では、事業承継の課題として「経営の承継」ではなく「資産の承継」に重点を置くものが多い。しかし、近年のアンケート調査では、中小企業の代表者が事業承継に着手する際に感じる問題点・課題として、「事業の将来性」、「後継者の力量」、「後継者の教育」など「経営の承継」に関する項目が優先的に挙げられている。一方で、「相続税などの税金対策」や「株式(経営権)の後継者への集中」など「資産の承継」に関する項目の比率は相対的に低く、「経営の承継」に課題を感じていることがわかる 。(図表5)
 そこで、本調査では、まず近年の傾向である事業承継の方法の多様化(親族内承継・親族外承継(従業員承継、M&A))の状況を把握するとともに、「経営の承継」に重点を置き、事業承継における課題・成功のポイントを探った。
図表1 代表者の平均年齢(資本金規模別)
図表1 代表者の平均年齢(資本金規模別)

注)中小企業以外の大企業も含む。
出所:中小企業庁「中小企業白書(2006年)」(樺骰巣fータバンク「社長交代率調査」)

図表2 事業承継の対応状況
図表2 事業承継の対応状況

※中小企業15,918社が対象(全国の信用金庫営業店による中小企業を対象とした調査)。
出所:信金中央金庫総合研究所「産業企業情報(2008.2.13)」

図表3 先代経営者との関係の変化
図表2 事業承継の対応状況

出所:中小企業庁「中小企業白書(2004年)」(鞄結桴、工リサーチ「後継者教育に関する実態調査」(2003年))

図表4 社長交代企業の社長就任経緯
図表2 事業承継の対応状況

出所:中小企業庁「中小企業白書(2007年)」(樺骰巣fータバンク「企業概要データベース」再編加工)

図表5 事業承継の際に想定される問題・課題
@事業承継の際に想定される問題
図表2 事業承継の対応状況

出所:信金中央金庫「産業企業情報(2008.2.13)」

 
2.調査方法
 直近5年以内に代表者が交代した中小企業を対象としたアンケートにより、事業承継への取組みおよびその成果を調査し、事業承継に成功し、承継を機に発展している企業が注力した点を明らかにした(有効回答数:306件。従業員50人以下の企業が68.3%、年間売上高30億円未満の企業が77.1%を占める)。なお、本調査では、事業承継を契機として「収益」、「売上高」、「従業員数」のいずれかが改善し、かつ悪化した指標がない企業を「成功企業」と捉え、逆に事業承継を契機として「収益」、「売上高」、「従業員数」のいずれかが悪化し、かつ改善した指標がない企業を「非成功企業」と位置づけた。
 また、「成功企業」10社に対してインタビューを実施し、事業承継の取組みについてより詳細な情報を得ると共に、有識者(事業承継コンサルタント、M&A仲介業者、税理士)にもインタビューを実施し、近年の傾向や課題点を整理した。
3.調査結果概要
 本調査結果より、事業承継を契機として発展・成長するポイントは、「事業承継全般におけるポイント」、「経営の承継におけるポイント」、「資産の承継におけるポイント」の3つに整理できる。中でも、アンケート結果からは、成功企業・非成功企業の取組は「経営の承継」について多くの相違が見られ、「経営の承継」が重要であることがわかった。

(1)事業承継全般におけるポイント
@基本は早期の取組開始
 事業承継対策は中小企業にとっていわゆるリスクマネジメント的な位置付けのため、日々の業務に忙殺されている中小企業では取組の優先順位が下がってしまいがちである。
 しかし、事業承継は会社を継続させる上で必ず訪れる問題である。事業承継の取組みが遅れ、現代表者が高齢になるほど急病や急逝によって突然の承継となるリスクが増し、相続を巡るトラブルが生じたり、後継者が経営スキルを身につけていなかったり、取引先や金融機関の信頼を得られない等の問題が発生し、最悪の場合は倒産に追い込まれることもある。したがって、
早期に取組みを開始することは円滑に事業承継を行い、成功を収めるための非常に重要な要素である。本調査で実施したアンケートにおいても、非成功企業に比べ成功企業の方が事業承継の取組開始時期が早いという結果が出ている。
 早期に取組を開始することの大きなメリットの一つとして、事業承継の根本的な問題である後継者不在の場合にも早期に対策を打つことができ、廃業の危機を回避して成功に導くことが可能となることが挙げられる。インタビュー調査では、先代には娘2人しかおらず承継が難しい状況であったが、後継者となる人材を外部から採用し、20年近い期間をかけて承継の準備を行い、従業員への承継に成功したケースがあった。
 なお、オーナー企業においては、自分の子どもを後継者にしたい気持ちが強い経営者も多いが、子どもが後継者になる意向がないというケースも散見される。このような場合は親族内承継に固執せず、自分の気持ちを割り切って新たな方法を探した方が成功する可能性が高い。こういった
後継者不在の事態においても、現代表者が長い時間をかけて決断できるというのも早期の取組があってこそといえる。
A幅広い関係者に目を向けて理解を得る
 周囲からの反対や抵抗によって円滑な承継が阻害されることを防ぐためにも、周囲に理解を得ることは重要である。インタビュー調査では、従業員から昇格した代表者が、承継後も2%の株式しか保有していないものの、オーナー一族の信頼を得て大規模なリストラを実施するなど承継を契機とした改革に成功したケースがあった。経営権が後継者に集中できていない場合でも、周囲の関係者からの信頼を十分得ていれば経営を円滑に承継できるといえる。
 また、アンケート調査では、成功企業・非成功企業とも役員・従業員や株主など社内関係者には事前に理解を得ている一方で、成功企業は非成功企業に比べ金融機関や取引先など外部関係者にも事前の理解を得ている比率が高く、成功企業の方がより広範に目を向けていることがわかった。
自社の関係者を幅広く捉え、理解を得る取組みを行うことが成功のポイントといえよう。
 インタビュー調査では、現代表者が若い頃から先代と共に金融機関の担当者と会っており、次期代表者であることを積極的にアピールできたため、承継後の現在もトラブルなく良好な関係を築き上げたケースがあった。
 なお、親族外承継の場合は、親族内承継に比べ社内の理解がより重要となる。従業員へ承継する場合には、他の従業員の心情を考えることなく承継を進めると、代表者となった従業員とその他の従業員の関係が上手くいかなくなる可能性がある。また、外部招聘やM&Aの場合にも、これまで全く面識のなかった経営者に交代することもあり、社内関係者からの理解が得られず円滑な経営が出来なくなる可能性がある。インタビュー調査では、外部から新しい社長を招聘する際、先代が従業員を全員集め、新しい経営者との関係が良くなるように事前に便宜をはかったことが成功の一要因となったケースが見られた。
(2)経営の承継におけるポイント
@後継者教育は自社と後継者のタイプを見極めながら行う
 アンケート調査では、後継者教育を自社で行った企業が多かったが、成功企業・非成功企業別に見ると、非成功企業に比べ成功企業の方が「同業ではない他社で経験を積んだ」比率が高いことがわかった。一方で、
「前代表者より直接学んだ」、「経営セミナーを活用」したのは非成功企業の方が比率が高く、一概に効果があるとはいえないことがわかった。
 インタビュー調査では、経営セミナーの内容が理論や実践のどちらかに偏っているなど、「理論と実践の両方を活かした経営を行いたい」と考える現社長の意向とは合わなかったため、現社長が独学でMBAコースの内容を勉強し、その後の経営に役立てたというケースがあった。
 また、教育の分野について、アンケートでは「営業」、「財務・経理」と回答する比率が高い結果となったが、成功企業・非成功企業別に見ると、成功企業では「生産・製造」、「企画・開発」と回答する比率が高い。
後継者教育として営業や財務・経理に注力することも重要であるが、生産・製造といった現場を把握する力や、企画・開発といった事業を積極的に開拓する力が承継後の経営に役立つことがわかった。自社の方向性を勘案しながら、将来の事業に役立つと考えられる分野に注力し、経験を積ませることがポイントといえる。
なお、後継者教育について、自社で教育する場合には、後継者が若い時期から一定のポストに就けて経験を積ませる会社も多いが、その際は周囲の従業員からの反発に十分気を付ける必要がある。他の従業員の心情にも留意して、一箇所の部署に長く置かないことも一つの手である。周囲の従業員との関係を崩さぬよう意識しながら後継者のスキル向上を図ることがポイントといえる。
A後継者とともに補佐役の選定・育成にも目を向ける
 
経験の浅い、新しい経営者をサポートする補佐役の選定・育成も重要である。アンケート調査においても、成功企業・非成功企業別に見た場合、非成功企業の方が「補佐役なし」と回答する比率が高く、補佐役の重要性が伺われる。
 補佐役となる人材について、役員や従業員など社内から探す会社も多いと考えられるが、もとより従業員数の少ない中小企業の場合には補佐役に適した人材がいないこともある。特に、オーナー企業に関しては従業員が経営者のイエスマンとなってしまう場合があり、補佐役となる人材が全く育成できていないという会社も珍しくない。このように、社内に適任者がいない場合には、社外にも積極的に目を向け、人材を調達する必要がある。
 インタビュー調査では、商社に勤務していた優秀な人材を採用し、取締役として迎え入れ、新規事業の中核的人材として現社長を支えているケースや、外部招聘によって就任した現社長が、前の職場から若く優秀な人材を補佐役として採用したケースもあった。また、M&Aによる承継を行ったケースでは、現社長の補佐役となる人材が親会社から派遣され、現社長をサポートしている。このように、成功事例の会社においては、外部に多面的に目を向け、適任者を探すことで自社を成功に導いていることがわかる。
 なお、先代の補佐役をそのまま現代表者の補佐役とする場合には、注意が必要である。というのも、先代の補佐役が実権を握ってしまい、現社長への求心力がなくなってしまう場合があるためである。特に、親族内承継の場合、先代の補佐役は後継者が生まれたときから従業員として勤務しているということも珍しくなく、後継者が全くイニシアチブを握れない会社もあるという。その意味で、
補佐役も代替わりをすることが重要となるが、補佐役の承継には先代の役割が非常に大きいといえる。
  また、先代自身がサポートする場合、承継した現社長の経営スキルを向上させるために、基本的な意思決定は後継者に任せ、あくまで相談に対し助言を与える以上の立場にならないようにすることがポイントとなる。アンケート調査では、代表者交代後の前代表者の関与の度合いについて、成功企業の方が「サポート役として意思決定に若干の影響」と回答する比率が高い。実際に、インタビュー調査では、意思決定は基本的に現社長に全て任せ、先代は現社長から相談を受けた場合のみ助言を与えている別のケースや、先代が意思決定を現社長に任せたことで現社長が新しい発想で新規事業に着手することができ、成功を収めたケースがあった。
 このように、現経営者の右腕となる補佐役の存在は必要であるが、現経営者の意思決定を尊重しつつ、上手く後押しできる人材を社内外から幅広く探し出すことがポイントといえる。
(3)資産の承継におけるポイント
@専門家や制度を上手く活用
 「資産の承継」における問題は、自社株式等の事業用資産に係る相続税の支払いの問題と、借入に係る個人保証・担保の問題が大きい。まず、自社株式等の事業用資産に係る相続税について、業績の良い会社ほど株式の相続税評価額が高額となるため、多額の相続税が課されるという問題がある。これに関しては、
経営承継円滑化法 6による相続税負担の軽減が期待されている。本法によれば、経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業の株式等を相続又は遺贈により取得した後継者について、当該株式等の課税価格の80%に対する相続税の納税が猶予されることとなる。
  しかし、納税猶予を受けるためには、様々な適用要件をクリアする必要があるため、専門家の活用なしでは難しい面もある。また、納税免除ではなく猶予であるため、偶発的な理由で適用要件から外れた際には多額の相続税が課税される可能性も否定できない。さらに、本制度は相続等により取得した対象株式を継続して保有する必要があるなど、主に家業として代々一族で操業していくことを決意している企業には向いているが、将来の承継に親族内承継のみならず様々な方法を検討している企業には利用しづらいものとなっている。
自社の状況を勘案し、かつ制度の詳細まで理解して利用を検討する必要があり、その意味で専門家を活用することが重要である。

6「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(2008年5月制定)。民法における遺留分の特例、事業承継時における金融支援措置、相続税の課税についての措置の3つで構成されている。

A個人保証・担保は計画的に処理
 借入に関する個人保証・担保については、事前の計画的な対策が重要となる。特に、従業員への承継の場合、承継する従業員の心理的負担が大きいため、事前に可能な限り処理することが必要である。インタビュー調査では、個人の担保をタイミングを見て計画的に外し、現社長への負担を軽減しており、現在は保証を減らすことに注力しているケースがあった。また、別のケースでは、先代時代の数千万円の債務を、現社長就任前に不要な不動産の売却等を通じて圧縮し、個人保証・担保の負担の小さい状態での承継が可能であったため、現社長は新たな改革に専念できたケースがあった。
なお、個人保証・担保については承継前の取組が重要となるため、先代の役割が大きく、先代は早い時期から意識的に取組む必要があるといえる。

 以上のように、「資産の承継」を円滑に行うことはもとより、「経営の承継」を重点的に行うことが、自社の経営理念・経営ノウハウさらには自社を牽引する力を承継し、事業承継を機に自社を新たな発展段階に移行するために必要不可欠である。永続的な成長企業であり続けるためには、事業承継を発展の契機として捉え、積極的に取り組むことが求められている。
以上
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