公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
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調査研究レポート
わが国および中国に拠点をもつ中小企業の現状と課題 ――共生とその戦略――
(1)研究の趣旨
 わが国の製造業を取り巻く経営環境は大きく変化している。近年の円高による輸出の減少と企業の東南アジア、とりわけ中国への生産拠点の移転による国際的な産業配置の転換は、国内中小企業をも中国との競争に巻き込み、「産業の空洞化」問題への対応を否応なしに迫られている。
 近年の中国経済の台頭は目覚しく、日本の1/10〜1/30とも言われる低コストの労働力の存在と、13億人の人口を抱える巨大な市場としての魅力が海外からの直接投資を引き付け、幅広い分野で国際競争力を高めて、外資系企業の進出を主導力に、世界有数の製造拠点として存在感を強めている。その結果、中国は「世界の工場」、「輸出基地」の様相を呈するに至り、その流れは今後もわが国の製造業と雇用に甚大な影響を及ぼしていくことは免れ得ない。
 WTO加盟により中国の対日輸出は顕著に増大し、2002年には初めて4兆円を超え対米輸入を凌駕した。そうした状況の下、中小企業においても、国内外の競争環境をふまえた生産・経営拠点の再配置をせざるをえない状況に変化してきている。
  本調査研究では、中国に生産拠点を持つ製造業11社の事例を通して、中小企業の企業内日中分業の現状を調査し、国内拠点と中国現地法人が共生を図っていくための中国事業の位置付けと、将来的な方向の展望について考察した。
(2)研究の概要
 研究を進めるに当たって、まずマクロ的視点から日本企業の海外生産の進展に伴なう中小企業の経営環境の変化を概観し、中国脅威論と日中相互補完論にも触れつつ、中小企業にとっての「中国」の位置付けを確認した。
 1985年のプラザ合意以降、85年に3.0%であったわが国製造業の海外生産比率は、95年に9.0%、2000年には14.5%と急速に高まった。中国の改革開放当初、中国の対日輸出は一次産品、日本の対中輸出は耐久消費財等の工業製品という垂直分業型であった日中貿易は、1980年代後半以降は水平的分業へと形をかえ、かつ直接投資とのリンクを強めている。とりわけ1990年後半から(1)低コスト志向の強まり(2)アジア各国の技術レベル向上により生産移転される製品・工程範囲の拡大(3)海外生産の逆輸入の本格化による輸入浸透度(製品の国内総供給に占める輸入の割合)の高まり――が看取され、中間財から最終財までの生産過程を抱え込む従前のわが国の産業構造・企業間分業関係が崩れ、系列や国境をこえた再編が劇的に進展し、「産業空洞化」が進みつつある。
 中国は世界の生産現場としての地位を確立しつつある一方、沿海大都市を中心とする購買力の高まりを受け、最終消費地=世界の市場としての評価も急速に高めつつある。こうした中で、わが国の製造業が次々と進出して、生産の場が日本から中国に移転し、中国の技術力も向上するにつれ、日本の「産業空洞化」を懸念し、中国を脅威とみる新たな「中国脅威論」が生まれている。これに対し、日中両国の産業構造は相互補完的であるとして、脅威論を否定し日中間の経済融合を積極的に評価する向きもある。いずれにせよ、海外生産の増加の影響を直接受けるのは主に下請企業群である。中国への生産移転が進むにつれ、国内にとどまっている中小企業にとって、取引価格の比較対象が「中国価格」となり、生き残りへの対応が一層の中国への生産シフトを促進する、というスパイラル的状況が生まれている。
 次に、事例企業の発展史と中国進出の概要を整理し、中国におけるオペレーションの実態を明らかにして、日本と中国の機能分担について考察するとともに、中国進出による国内での雇用への影響と競争戦略について検討した。検討に際しては、中国の模造品や特許漏洩問題も加味した。その結果、主に以下の9つの点が明らかとなった。
 第一は、事例企業は主にコスト低減と市場の移動への対応(国内労働事情を含む)を契機として進出しているということである。中国進出に先行し海外拠点(香港現地法人など)を展開している企業も多く、中国進出は東南アジアを含めた最適地生産化の流れという、国際的市場環境の変化に位置付けられ、対中進出は日本対中国という対立関係のみでは捉えきれない。
 第二は、進出形態には、委託加工と出資を伴う独資・合弁があるが、委託加工も事実上専属工場として機能している一方、出資を伴う進出では単独出資を選択する傾向にあり、日本側で経営のイニシアティブを握るという方向が明らかになってきた。さらに、進出形態の選択は進出類型や立地選択ともリンクし、委託加工や輸出主体の企業は、香港の営業拠点に近接し、部材調達やワーカーの循環的供給が容易な広東省への立地が多い。逆に大手日系企業の華東地域への進出を反映し、事例企業の中にも同地域に拠点を設置する企業も確認された。
 第三は、立地選択に当たっては、経営者自身が情報を収集し、適切な判断を下している企業が成功しており、加えて、立地選択上の情報をもたらしてくれるキーパーソンの存在も確認された。
 第四は、進出に当たっては、主要取引先の中国への移転を契機とするケースの他、日系企業を主取引先のターゲットとして進出する場合も多く、部材・設備の調達事情も含め、現段階では日系企業間取引の様相が比較的濃い。但し、中国への進出が従来の系列をこえた新規取引先開拓の契機となるケースもあり、この点は、競争の土俵が従前より大きく広がる中で、競争は激しいが取引機会も拡大する可能性を示す積極的側面である。一方、金型生産やその他部材供給において台湾系企業などの急激な能力向上が確認され、調達の場の移転が進行していることがうかがえた。
 第五は、体制が異なり、制度・法制の運用の巾が大きい中国での事業展開は、現地政府のサポートが重要な要素と位置付けられる。
 第六は、日本の経営者の発想や本体の経営方針を体得した中国人スタッフを活用することが、異文化コミュニケーションの「翻訳機能」を果たし、現地でのオペレーションを円滑にする役割を担っている。資本の所有者が経営者を兼ねることの多い中小企業の場合、企業のアイデンティティに経営者個人の思想や哲学が強く反映され、これまでの企業発展のありようとも不可分の関係にある。それゆえ中国事業でも、このアイデンティティを維持していく必要があり、経営者や日本側のイニシアティブを浸透させるための人事配置が行なわれている。
 第七は、右肩上がりの成長と工場進出が続く中国市場への供給を目的とする企業に成長の可能性があることは言うまでもないが、その場合、固有技術をもつ企業は取引先を分散することにより自社のイニシアティブ維持が可能であろうし、固有技術を持たない企業は主要取引先に徹底的に密着していくという、日本国内と同様のパフォーマンスを辿ると考えられる。日本市場を対象にする場合、中国での生産と日本での「市場・顧客マッチング」との組み合わせ方次第では、日中両方での発展・拡大の展望がもてるといえる。
 第八に、日本に何が残せるかという点では、中国での自立的事業展開を可能とするには固有技術の有無が大きな要素であり、技術面で常に先行するための開発拠点を日本に置く可能性が高くなる。また、全ての生産拠点の中国移管には、開発・試作上の問題に加え、カントリーリスクの問題も考慮する必要がある。中国での生産と日本での「市場・顧客マッチング」とを組み合わせた機能分担を行なう場合も、開発・試作やメンテナンス拠点は日本に持たざるをえない。但し、中国市場へ供給するという観点や中小企業の人的制約を考えれば、開発を現地で行なうのも一つの方向となる。
 第九は、固有技術を持たない企業群が国内で存続するには、「木目細かい機敏な対応」という中小企業の持つ特性を生かした、ファブレス企業からの生産受託、商社化などの方向性が残されている。最終財の生産の場が中国に移転し、中国での激しい競争が価格のみならず品質に対する要求を高めていくにつれ、中国への工程ならびに技術の移転、現地労働者の技能向上が加速し、日本に残る領域は狭まっていく方向にあることは否定できない。しかし、中国拠点への技術や技能、製品の移転を渋っても、個別企業として競争に生き残ることが困難になりかねず、技術的条件や移転の環境をみながら、移転を進めざるをえないと考えられる。
 事例企業のうち、中国進出により日本国内での雇用が減少している企業群は少数であり、中国事業を展開し、日中間で上記のような機能分担を構築することで生存し発展する余地をもつ企業群が、サンプルは少ないながらも高い比率を占めたことは、強調されてよい点であろう。
(3)結 び
 今回の調査を通し明らかになったことは、(1)あらゆる中小企業がグローバルな競争の中で企業の存立を問われており、中国等への進出も大企業の海外進出や円高などに対抗したものであること、(2)中国工場の位置付けが低賃金を利用した逆輸入や海外への輸出から、拡大中の中国市場へのビジネスチャンスを見出すものへ転換する過程にあるということ――であった。
 こうした中で特に注目されたのは、特許などにより独自の自社技術を確保しつつ大企業と互角に競争する中小企業の存在と、中国進出によって取引がなかった大企業と新しい取引関係を築いている例であり、中小企業にとって中国進出が、従来の系列下請関係からの脱却につながることもあるということであった。
 このように、中国でのビジネスを成功させ、中国での現地生産と国内の雇用との共生を図るに当たって、日本の本社の技術とノウハウの蓄積を生かして、グローバル市場でも存立できるような独自技術を開発し、技術的優位を確保することが、日本での雇用を維持するための要である。また、中国進出成功のためには技術的優位と同時に、経営上の主導権確保も重要だということである。製造工程、特に労働集約的工程については中国の圧倒的な低賃金に対抗するのは難しく、今回の調査で、系列下請型企業の国内人員の減少が顕著だったことから示唆されることは重要である。雇用確保の面で国内に残る部門は、1つは製造を殆ど中国に移して国内は製造、開発と営業拠点になる道であり、またもう1つは、国内は他社と差別化を図った独自製品の開発や高付加価値品の製造拠点として日中の分業体制を固めるという方向がうかがえた。
 いずれにせよ製造業の中小企業が存続・発展するためには、中国に進出するか否かに関わらず、中国という巨大市場を視野に入れたグローバルな経営戦略が不可欠になっている。その場合、短期的にはともかく、「インテル型優位」に象徴される技術優位を維持するための開発をしていかないと、長期的には中国市場あるいは世界市場での競争に生き残れないのではないか。こうした技術優位に立脚しつつ中国との共生を実現していくことが、21世紀のグローバル競争の中で日本経済を支え雇用を確保するための道であるといえる。
以上
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