公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
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調査研究レポート
21世紀の日本産業とサプライヤシステムのあり方 ―自動車工業サプライヤ中小企業の動向を中心に―
(1)研究の趣旨
 90年代は、わが国戦後経済の大きな転換点の時期であった。わが国は急速な経済のグローバル化と日本企業の海外事業展開、国際規模での競争の激化、「価格破壊」の進行、企業経営の困難の拡大といった環境変化を被った。加えて欧米企業はグローバル化・情報化を背景に世界規模の生産体制とサプライヤシステムの編成や新しい管理方法の推進を進めた。一方、80年代に世界的に注目された日本的下請サプライヤシステムは、今日その限界が指摘され、見直し機運も高まっている。すなわち、有力サプライヤ企業のもと、第一次、第二次、第三次と広がる「裾野」企業群による受発注関係の高度分業体制を基盤に、「準垂直的統合」された階層的企業集団の形成と、長期的発注を前提とする継続的な関係がもたらす取引コスト削減効果と、密接なコミュニケーション効果により、結合生産力としての効率性発揮を狙う仕組み全体の見直しである。こうした状況の中で、近年、自動車産業ではメーカー同士の競争による業績格差が広がり、国際的な再編成が進む等業界地図が大きく塗り変わっている。
 本調査研究では、自動車産業における生産分業体制としてのサプライヤシステムを取り上げ、今日の環境変化の下で、その効率性・競争優位性がどこまで維持可能なのか、またその中でのサプライヤ中小企業の地位と存立基盤がどのように変わり、どういった経営が志向されているのか等について、21世紀を迎えた段階での現状と展望を検討考察した。
(2)研究の概要
  本調査研究に当っては、日本を代表する大手自動車メーカー・大手サプライヤと取引のある中堅・中小部品サプライヤ企業10社(トヨタ・グループを主要取引先とする企業5社、日産グループとの取引比率の高い企業2社、独立系企業3社)を訪問し、ヒアリングを行いつつ進めた。
 国内自動車生産台数はバブル崩壊以降緩やかに低下を続けている。その生産台数も、輸出が国内需要の不振の一部をカバーした結果であり、国内市場は縮んでいくパイの争奪戦の様相を呈している。こうした中、自動車メーカーの間で次のような大きな変化が生じてきている。(1)国際競争の激化と国際的再編成の進展。世界市場での優位企業と劣位企業の顕現化。(2)国内でも優位企業がその地位を確保する一方、競争力低下企業の外資有力企業の傘下入り、子会社化の動き。(3)環境対応技術等を含む開発費用が乗数的に増加した結果、サプライヤ企業を巻き込んだメーカー同士の合従連衡の動きが見られる。(4)製品の小型化・省エネ化の流れと国内市場の停滞・デフレ傾向の中、収益確保のための新たなコスト削減と競争力確保の努力が求められている。こういった状況変化の中で、新車開発期間の短縮と開発コストの大幅削減をベースとする新しい生産ポリシーが強く求められている。車種統合、部品・プラットフォームの共通化等をベースとした新しい製品開発システムが編成されるようになる一方、海外調達の広がりとともに系列内発注や国籍に拘らない「世界最適調達」の購買体制への発展が見られる。そうした動きに呼応する形で日本の大手部品サプライヤの一部も欧米市場での設計・開発・生産事業を相互補完し、経営資源の有効な活用と取引関係の維持発展・新規開拓のため、国際的な資本・業務提携を促進させてきた。こうした再編や提携を通し、自動車メーカーと部品サプライヤは生産体制の集約・再編を進めており、二次部品サプライヤ以下への影響も大きい。なお、部品のモジュール化については、我が国においては、一次サプライヤが従来こうした機能を担ってきたため、日本の自動車メーカーの場合、「モジュール化」により生産システムとサプライヤシステムの関係が一変するといった様相はなく、従来からの自動車メーカーの占める地位と生産体制を前提とした範囲のものに留まっている。
 90年代後半、海外生産の拡大と世界調達が徐々に進んでいたが、90年代末、一連の自動車メーカーの経営困難が表面化し、国際的な再編成が急激に展開され、かつてない規模での合理化・再編の波が自動車メーカーの生産体制の内製外製双方に及び、その購買外注政策は様変わりした。
 しかし、経営危機打開のため欧州系グループへの参加、資本提携を行ったA社と、経営好調なB社の日本を代表する自動車メーカー2社の購買政策について検討してみると、A社では、ドラスチックなサプライヤシステムとサプライヤ企業の全面見直しと再編を経ながらも、新たなパートナーシップへの移行を通じ、ある程度の安定性を持つ関係を再構築し、これらの能力を製品開発やグローバル展開の中で系統的に生かしていこうとしている。また、B社ではトータルな競争力強化とそれに見合う生産システムの一層の効率化を図る中で、よりオープンでフラットなサプライヤシステムを志向しながらも、当面は有力サプライヤの技術力と開発・生産協力を重視した、系列制の強化の流れを辿っていると考えられる。
 即ち、21世紀を迎えた大手自動車メーカーの生産システムと購買外注管理は相当の変動を示し、サプライヤシステムのありようも変わってきているが、それは90年代末までに生じてきた変化の延長線上にあるものであり、決定的に異なる事態が生じているものではないと考えられる。
 しかしその中で、自動車メーカー間の国際競争激化と業績の二分化、国際的企業グループの再編成が生じ、それによってそれぞれの経営志向、管理方針の差異が目立ってきており、「日本的」といったひとくくりの捉え方が困難になってきている面もある。とりわけ欧米企業との合弁による世界的規模の購買センターの確立といった事態は新しい段階を画すものである。また、従来の系列に依拠しつつ、内外製のどちらが有利かを判断した上で、複数発注原則を維持する管理方針と、取引関係見直し、内外製全面見直し、一社集中・規模利益重視の外注政策ではかなりの違いがある。しかし、後者にあっても中期的には継続的取引関係を構築し、相互の協力を図っていくのが本来の政策であるとしており、前者との違いは見かけほど大きいとはいえず、むしろこの機会に、従来の関係を崩し、改めてサプライヤシステム再構築を図ろうとしたものと考えられる。
 こうした状況下で、事例企業のヒアリングにより判明したのは、業績好調なトヨタグループを主要取引先とする先では、同グループへの依存度に大きな変化は生じていないものの、バブル崩壊後、トヨタからトヨタ依存からの自立を促され、「基本的に他社売り込みをしてよい」と推奨されるようになっている。さらに1999年の日産リバイバルプラン(NRP)以降は、日産以外の自動車メーカーでも一層の原価低減要求をサプライヤに示すようになった様子も窺えた。従って、国内生産の拡大がそれほど期待できない状況の下で、サプライヤの主要取引先への高度依存体質は今後の不安定材料となりかねず、この点への対策として以下のような対応策が取られていた。(1)国内よりも海外での取引先拡大・顧客多角化を目指す。(2)QCD競争力や独自の技術力をより高度化することで継続受注や新規取引先の開拓を図る。この場合の具体策としては、(1)製品開発段階から提案し、関与する、(2)独自製品開発への取り組み、等である。これまで、「いかにつくるか」を追求してきた部品サプライヤも、今後は並行して「何をどうつくるか」というテーマに取り組む企業が増えてくるものと思われた。(3)コスト競争力構築への取組み。具体策として、(1)機種変更や生産量の変動に柔軟に対応するための工機部門の充実、(2)非正規社員の積極活用(固定費の変動費化)等による労務コストの削減、(3)ベアゼロや昇給停止、能力主義・成果主義賃金の導入などの人事制度改革、C物流コスト削減の取組み等が見られた。
 国内市場が縮小し低迷しているだけに、今後成長が期待されるグローバル事業には迅速で的確な対応が求められるが、中小部品サプライヤにとって海外拠点の設置と運営のリスクは決して小さくはない。そのため、中堅・中小の規模を問わず、アライアンスに積極的に取組み、リスクの分散、投資負担軽減、市場情報収集といった面で、いろいろな形で効果的な海外事業展開手法を追求している。 なお、これら企業の海外事業はサプライヤ独自の判断によるものもあるが、客先要望に沿う形や現地政府のローカルコンテンツ対応による海外拠点設立といった側面が強い。部品サプライヤが、過度な投資負担や人的負担のかかる海外事業について、関税問題等の政治的要因も考慮しつつ、その展望とリスク分析をすることの重要性はますます増してきている。他方で、国内に残るニッチな仕事を集めることで会社の規模に適した経営を志向し、海外展開には距離を置く企業もあった。
(3)結び
今回の調査から明らかになったことは以下のようにまとめられる。
(1) 従来の主顧客・系列の占めるポジション・競争力と経営力の差異がサプライヤ企業の将来見通しに大きく影響してきている。系列にこだわらない新規受注開拓や市場拡大の機会でもあるが、競争優位確保は簡単でなく、サプライヤ毎の業績の開きが顕著になっている。
(2) サプライヤ企業同士の再編成も進展している。しかし、日本の自動車メーカーは濃淡の差はあれ、欧米的サプライヤシステムとの取引関係にはかなり慎重で、中長期的な関係と協力体制に依然重きを置いている。
(3) サプライヤ企業の海外事業展開の波は新たな段階に入りつつあり、動きが一挙に加速する可能性がある。これに加われる経営資源と体力を持つ企業とそうでない企業の立場の開きが今後顕著になろう。
(4) こうした諸条件の変化により、生き残りをかけたサプライヤ同士のアライアンスや海外連携等が進み、新たな取引関係構築を目指す中堅サプライヤ企業と、取引再編の荒波を受け、存続の道を模索する限界的サプライヤ企業といった分化が進みつつある。
(5) この限界的サプライヤ企業の多くは、サプライヤシステムの第二次、第三次レベルにあり、その安定的な存続は容易ではない。部品共通化やバリエーション限定、発注形態変更等はこのクラスの企業には事業縮小につながるため、中長期的には納入先のグローバル展開への対応や、新規需要新市場開拓等の方向を目指す必要がある。
(6) サプライヤ企業はいずれも、この大きな変動と再編の時期を新たな受注拡大、顧客獲得の機会ともとらえ、従来の枠組みにとらわれない取引関係を志向しているが、部品の共通化や統合で、特定部品の受注先細りも懸念される。従って、その場合、他産業他分野向けを含めた、営業努力が新たな課題になってきている。
(7) 体力のある自動車部品サプライヤの海外事業展開が再び目立ってきている。しかし個々には、海外事業に慎重なスタンスも見られ、単純なコスト競争力比較だけで、海外生産が有利と見る姿勢には批判的である。その意味では、国内における「残余者利益」を意識した生き残り合戦の様相も考えられる。
 90年代初めに我が国サプライヤシステムは、「より普遍性を持つバランス型リーンシステムへ向けての転換」すなわち「部品メーカーも収益性を重視し、メーカーも相応の負担を求められる関係への移行」すると予想する研究もあったが、今のところ、メーカー間業績格差の拡大もあり、収益性のアンバランスは広がり、「バランス型リーンシステム」といった様相はうかがえない。また、一部で喧伝されるような部品の「モジュール化」による生産システムとサプライヤ関係が一変するといった様相もない。それはあくまで、共同開発の推進と開発のアウトソーシング化の一環で、従来からの自動車メーカーの占める地位と生産体制を前提とした範囲に留まっている。
 結論としては、自動車産業を典型とした「日本的サプライヤシステム」は大きな試練と再編の波にさらされつつも、その優位性効率性を新たな形で引き続き発揮していこうとしている。しかしまた、これを支えてきた多くのサプライヤ中小企業の地位が今後とも安定的に推移することは誰も保証できない。強まるグローバル競争と業界再編の渦中で、新たな戦略展開と独自の技術力強化を図り、個々の存立基盤を強化していかなければ、生き残りの道が容易でないことも間違いない。
 なお、自動車の環境対応強化やリサイクル化、将来の代替エネルギー利用・エコカー化等が、今後の生産のあり方や部品供給に大きな影響を及ぼす可能性はあるが、それにはまだ時間がかかるし、自動車という商品の基本的機能・機構が一変するわけでもないため、各サプライヤ企業もこれに対する大きな不安は抱いていない。
以上
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