公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
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調査研究レポート
中小企業の海外展開 〜新世代グローバル企業の研究〜

1. 調査の背景・目的
 少子化による人口減少、財政支出の削減等に伴い、我が国の国内市場は今後も縮小が予想される。また、近年においては、リーマン・ショックやギリシャ財政危機に端を発する未曾有の円高により、日本企業は厳しい経済環境下に置かれている。
 このような中、我が国の大手製造業は、海外現地生産等の海外展開を加速させており、今後は現地調達比率を一層高めていくことが予想される。この結果、大企業を頂点とする日系企業同士の系列取引が崩れ、中小企業にとっては系列に依存しない独自の販路拡大策がさらに必要となるであろう。
 こういった経済環境や産業構造の変化を受け、日本国内を軸に事業活動を行っていた中小企業は、今後は新興国をはじめとする諸外国における成長機会を取り込む等、経済のグローバル化に対応した積極的な海外展開が重要となってくると見られる。
 これまで、中小企業における一般的な海外展開の形態は、販売拠点や生産拠点の設置であった。しかしながら、近年の中小企業の海外展開においては、既存の海外展開の枠組みにとらわれない新たな胎動も見られている。
 本調査では、こうした中小企業の新たな海外展開への動きを、事例を通じて把握するとともに、その背景となる各社の方針・戦略と展開形態との関連性を明らかにすることで、海外展開を考える多くの中小企業に対して有用な情報を提供することを目的とする。
2. 調査方法
(1)文献・資料調査
  既存の統計や分析を利用して、海外展開の変遷や中小企業の海外展開に対する取組みを概観した。
(2)インタビュー調査
  特徴的な海外展開を行っている企業にインタビューを実施した。
3. 調査結果
(1)日本企業の海外展開の変遷
 各種文献や統計資料より、日本企業の海外進出が活発化した1960年代後半から現在までの日本企業の海外展開の変遷を整理した。

@日本企業全体の海外展開
 日本企業の対外直接投資は第2次大戦後停止されていたが、旧外為法が施行された1951年に再び開始された。その後の対外直接投資件数は低調であったものの、1969年から1972年にかけて実施された対外直接投資自由化措置と海外投資促進措置により、アジアを中心として大幅に増加した。
 1970年代後半からは、鉄・非鉄、機械、電機、輸送機械の分野において欧米先進諸国との間の貿易摩擦が激化し、欧米向けの投資が増加した。アジアでは、部品産業の育成を意図した現地政府の政策により、現地へ進出していた日系企業は一部の部品の現地調達を開始した。
 1980年代後半から1990年代にかけては、プラザ合意を契機とした円高の進展やバブル崩壊後の景気低迷の中で一層のコスト削減を迫られたことから、企業の海外展開は急増し、1989年に対外直接投資件数はピークを迎えた。
 しかし、1990年代後半には、1997年に発生したアジア通貨危機の影響によって投資件数は減少した。また、2000年代に入ると、世界経済の混乱等を背景として日本企業の現地法人数が減少した。しかし、近年では、いざなみ景気やグローバル化の一層の進展等が要因となり、日本企業の現地法人数はアジアを中心として増加に転じている。

A中小企業の海外展開
 1970年〜1975年にかけて現地法人を有する中堅・中小企業数は、前述の1969年〜1972年の対外直接投資自由化措置及び海外投資促進措置の影響等により、大きく増加した。また、1980年代前半になると、既に海外へ進出していた大企業が一部部品の現地調達を迫られたことから、大企業の下請け製造業を中心に海外展開が進んだ。さらに、1980年代後半に入ると、大企業の要請による中小製造業の海外展開が本格化した。1990年代には、国内市場の縮小に直面した中小製造業が自己判断で海外へ進出するケースも増加した。
 2000年代には、大企業の現地調達の高まりや東アジア諸国における地場完成品メーカーの成長に伴い、現地での部品製造や機械加工ニーズが増加したことから、中小企業の東アジアへの進出が進み、現地における製造拠点数が増加した。また、現地の所得水準の上昇に加え、サービス産業に対する現地政府の規制緩和や日系企業の増加に伴うサービス需要の拡大を受け、非製造業の海外進出も増加した。
 このような、中小企業における海外展開についてその特徴をまとめると、図表1に示した通り、これまでは生産や販売を目的としたものが圧倒的に多く、さらに国内の取引先大手企業の海外展開への追随や、国内における販売先維持のためのコスト削減を動機として海外展開を行う事例がほとんどであった。
(2)中小企業の海外展開の新たな胎動
 インタビュー調査及び文献調査により、中小企業16社の海外展開における取組を分析したところ、多くの企業は従来同様、生産機能、販売機能を求めての海外進出であったが、その動機は従来とは異なり、多様化していることがわかった(図表2)。また、人材確保・研究開発機能を求めて海外進出を行うといった従来ではあまり見られないケースも見られた。
 以下では、インタビュー調査及び文献調査で見られた各機能とその機能を求める動機を整理し、中小企業の海外展開における新たな胎動を取りまとめた。

@生産機能を求める動機
 従来は、販売先からのコストダウン要請に対応することを主目的として生産機能を海外に求める事例が多かったが、本調査で把握した事例では、必ずしもコストダウンのみを目的としていないことがわかった。

a)より付加価値の高いモノづくり
 従来は、進出先国の技術レベルに合わせて付加価値が高くない製品を生産する企業が多かったが、本調査では、工場設備の工夫や教育の徹底によって、日本国内と同じかそれ以上に付加価値の高い製品を低コストで製造している事例が見られた。

b)1カ国生産によるリスクの分散
 1カ国で生産するリスクに着目して、複数の国に生産拠点を分散させようとする企業が該当する。チャイナ・プラス・ワンに代表されるような、途上国特有のカントリーリスクを避けるための取組があったほか、日本のリスクを回避する取組も見られた。先般の東日本大震災を受けて、製造業の大企業を中心にリスク回避のためサプライチェーンを複数構築する動きも見られるが、このような取組を行う中小企業の先例といえる。

c)顧客サポート体制充実
 競争力維持のため、海外に分散している既存の顧客へのサポート体制の充実を目的とした海外展開である。事例では、メンテナンス機能、生産機能を併せ持つ拠点を設置し、現地の技術者を育成してアフターサービスを提供したり、顧客の要望に合わせて商社がメーカーに業種転換し、現地生産を開始するといった企業が見られた。


A販売機能を求める動機
 従来と異なり、既存の取引関係を前提とせず、日系企業と国内とは異なる取引関係の構築を狙ったり、現地企業、現地消費者といった新規顧客の開拓を狙う企業が見られた。また、これまで海外での販売に適していないと考えられていた日本文化関連の製品を取り扱う企業も見られた。

a)現地での売上拡大
 既存の取引先への追随ではなく、海外において日本国内とは異なる取引関係の構築を主目的とした海外展開である。

b)新たな顧客層開拓
 これまであまり注目されていなかった顧客層の開拓を目指した海外展開である。日本企業が開拓できていなかった地域の地場企業への販売に成功した企業や、BOP層の開拓を目指す企業が見られた。

c)日本文化関連の製品や商品の販売
 日本人の海外居住が進んだことや、日本文化に関する興味が深化したことに着目する、いわゆるCool Japan関連の製品・商品を扱う企業が該当する。扱う商品や製品の例としては、日本アニメ文化や日本食文化、日本独特のファッション文化等が挙げられる。本調査では、海外での販売に適していないと考えられていた日本固有の文化に基づく製品・商品を海外で販売する企業が見られた。


B人材・研究開発機能を求める動機
 従来はあまり見られなかった、人材の確保や研究開発の機能を海外に求めるという動きが見られた。

a)人材の確保
 国内では新卒学生等の大企業志向が強まり、優秀な人材の確保が困難になりつつあるといわれており、事例の中でも、IT業界では国内におけるソフト技術者の採用が厳しくなっているという指摘があった。このような流れを受けて、自社に必要な人材を日本国内ではなく、海外に求める企業が現れている。

b)研究開発の強化
 製品開発のための最先端のノウハウの取得を目的として、海外の大学や企業との提携を行う事例が見られた。自社で開発した製品の理論的裏付けを得て有利に販売を進めるために共同研究を行うケースや、自社製品を用いて他分野の研究開発を行うケース等が挙げられる。


C多様化する中小企業の海外展開の動機
 これまでの中小企業における海外展開は、生産機能や販売機能の獲得を目指したものが圧倒的に多かった。さらに、海外進出を行う国内の取引先大手企業に追随するケースや、国内における販売先維持のために、コスト削減を動機として海外展開を行うことがほとんどであり、「既存の取引関係」が大きなキーワードであった。
 ところが、本調査における中小企業の海外展開事例の分析結果からは、必ずしも「既存の取引関係」を前提とせず、各社の独自の戦略・取組に基づいた多様な動機による海外展開の動きが明らかになった。
(3)今後の海外展開
 これまで見たように、海外展開に成功している中小企業は、自社の戦略や方針に基づいて海外市場を捉え、その展開形態や販路開拓の方法等において独自の工夫をしている。
 中小企業においては、各社によって扱う製品・サービス、人材・資金等の経営資源や自社を取り巻く事業環境が大きく異なることから、自社をよく見つめた上で、他社と横並びではない自らの海外展開を模索していくことが必要となる。
 事例の分析結果からは、成功にあたって共通のポイントが見られた。以下、5つのポイントを記載する。
@海外展開の成功のポイント

a)入念な事前調査
 進出する国や地域を決定する前に、その国や地域についての入念な調査が重要であることは既に多くの文献等で指摘されていることであるが、ここでも改めて強調しておきたい。
 事前に把握しておくべきことを挙げると、対象となる国・地域の法制度や商慣行、競合や販売先の状況、人材・原料等の調達環境など多岐にわたる。
 一般的に、事前調査の項目としては、法制度や顧客・競合の状況等、ある程度客観的に把握できるものが多いが、実際には進出国の国民性がビジネスの成否を左右する場合もある。このような定性的な情報も出来る限り事前に把握し、日本と異なる国民性がもたらすビジネス上の障害について対策を練っておくことは非常に重要である。

b)計画的な投資
 海外展開にあたっては、日本本社の体力を踏まえた上で投資計画を立てることが重要である。海外進出においては、国内とは事業環境が全く異なることから、現地法人設立後の数年間は赤字になることも覚悟しておく必要がある。また、最悪の場合には、撤退を余儀なくされることもある。実際に、今回の調査対象企業においても、かつて撤退を経験した企業も少なからず存在した。
 しかし、これらの企業は、撤退という大きな痛手を被ったにも関わらず、改めて積極的に海外に進出し、現地において確固たるビジネスを確立させている。この背景には、日本本社まで傾けてしまうような巨額の投資を避け、海外への投資を身の丈にあったものに抑えていたことが挙げられる。過度な投資は禁物である。

c)キーパーソンや適切なパートナーの存在
 海外に拠点を構えるにしろ、輸出を行うにしろ、現地に信頼のおける人物や企業がいることが重要である。特に、中小企業においては日本国内に限っても人的リソース等の経営資源が限られていることが少なくない。したがって、これらキーパーソンや適切なパートナーが現地でのビジネスを主導していくことは一つの理想的な形といえる。

d)現地に適した販路開拓
 本調査で取り上げた事例では、多くの企業が現地で独自の販売ルートを開拓し、現地企業を相手に積極的な営業を仕掛けていた。前述の通り、今後は中小企業が各社に見合った海外展開を行うことが重要であることから、これらの企業における海外での販路開拓への取組は大いに参考になると思われる。

e)現地化と日本の企業文化のバランス
 「a)入念な事前調査」で述べた通り、海外においては日本とは法制度・商慣行や資源の調達等の事業環境が大きく異なる。また、地理的に近接した国であっても、住民の気質は大きく異なる。こういったことから、海外では日本での事業スタイルをそのまま持ち込むのではなく、現地に合ったスタイル、つまり現地化を進めることが重要となる。
 しかし、その一方で「守るべきものは変えない」ということも非常に重要な要素である。日本企業としての考え方やそのやり方を現地に根付かせることは、現地での反発もあることが予想されるが、事例を見ると、自社の企業理念や企業文化といったアイデンティティーを形成する部分については、勇気を持って日本と同じ方針を貫く姿勢が重要である。
Aおわりに 〜中小企業の新しいステージに向けて〜
 本調査では、国内市場の縮小や景気後退、また近年の円高といった逆風にも負けず、自社の置かれた事業環境を前向きに捉え、積極的に海外展開を行う姿が見られた。 今後、これらの国内環境に加えてグローバル化も加速していく中で、国内と海外の差はこれまで以上に小さくなるだろう。特に、TPP構想や東アジア共同体構想が持ち上がる現況を考えると、アジアは日本の中小企業にとっても「一つの」重要な市場となっていくと見られる。このような変化に対して、中小企業は長期的な戦略を基に自社に最も適した海外展開を行う必要がある。海外を決して遠い存在ではなく、身近なものとして捉え直すことが肝要であろう。
 とはいえ、多くの中小企業は、経営資源に限りがあり、直ちに海外展開に取り組むことが難しいかもしれない。その場合には、インターネットを活用して、たとえ少量であっても海外と取引を行ってみたり、まずは現地調査だけでも行ってみるという姿勢でもよいだろう。小さなことであっても、これまでになかった海外との接点を有することで、自社の新しい方向性が見えることもあるだろう。「まずはやってみる」という姿勢が重要である。
 これまで国内市場中心で事業を行ってきた企業が海外に進出することは、改めて自らのやり方を見つめ直し、新たな取組に着手するという意味において一筋縄ではいかないこともあるだろう。変化とは、「疲れ」を伴うものである。しかし、国内市場の縮小やグローバル化といった大きな流れの中で、まさに日本の中小企業は変化を求められている。
以上
 
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