公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
センター紹介 調査研究事業 表彰事業 ディスクロージャー お問合せ リンク サイトマップ

調査研究レポート
中小企業の新しい生存戦略に関する調査研究 〜中小企業が中小企業であり続ける理由〜

1.調査の背景・目的
 我が国において、中小企業の数や企業全体に占める構成比は、戦後一貫して高い水準を保っている。現在においても、中小企業は我が国における企業全体の97%以上を占めており、急激な円高やグローバル競争等、様々な逆境を経験しているにも関わらず、我が国経済において安定的な地位を確保してきている。
 また、長い歴史を持つグッドカンパニー大賞の受賞企業は、2008年までに541社に上るが、受賞後に中小企業から大企業へと拡大路線を進み、上場した企業は66社にとどまっている1 。つまり、大半の受賞企業は、市場で強い競争力を持ちながらも中小企業として一定の規模を保っている。
 さらに、グッドカンパニー大賞受賞企業に限らず、多くの中小企業の経営者からは「規模の拡大は目指していない」と聞くことが多い。これらの事実から、中小企業の成長という場合は、企業規模の拡大により大企業に近づくことを意味することが多いものの、一方で中小企業が活動しやすい領域というものが存在し、そのような領域で活動する中小企業には、中小企業であり続けることに対する積極的な理由があるのではないかとの仮説を持つに至った。
 そこで、本調査では、中小企業が長期にわたり安定的な地位を占めている中で、強い競争力を持つ中小企業を対象に、その戦略を明らかにすることを目的とした。具体的には、企業の規模について、一般的な企業成長のライフサイクルに拠らず、拡大を第一義としない中小企業の戦略、すなわち中小企業が中小企業であり続ける積極的な理由に着目し、その戦略について調査を実施した。
1「グッドカンパニー大賞」について、2005年度(平成17年度)以前は「公益社団法人中小企業研究センター賞」として表彰が行われていたが、ここでは、「グッドカンパニー大賞」に表現を統一する。
2.調査方法
(1)文献・統計調査
文献や統計データを利用して、マクロ的に見た中小企業数や財務状況を概観した後、中小企業の存立基盤等に関する先行研究を参考とし、本調査のベースとなる概念をまとめた。
(2)インタビュー調査
 当センターによるグッドカンパニー大賞受賞企業リストを中心に、長い業歴を通じて強い競争力を持ち、かつ中小企業であり続ける企業を対象にインタビューを実施し、中小企業であり続ける理由を調査した。
3.調査結果概要
(1)先行研究の再整理から導き出される新しい視点の導入
 先行研究においては、中小企業が中小企業であり続ける理由を解明するために、中小企業が存立しやすい市場について、業種や産業特性を基準にして考察しているものが多い。しかし、単一の業種においても様々な市場が存在するため、業種を軸として分析した場合、個々の企業における中小企業であり続ける理由を詳細に分析することが難しい。また、例えば細分類のように、業種をより細かい単位で分析する方法も考えられるが、これは結果的にニッチな市場の導出に終わる可能性がある。
  さらに、各中小企業を見ても、大企業と競合的な事業を行う一方で大企業からの下請を行っている等、複数の事業を行っている場合があり、業種や産業特性を基に中小企業が中小企業であり続ける理由を問うのは、分析が不十分となる可能性がある。
  そこで、本調査では、業種という軸ではなく、事業戦略という新たな軸を設け、再度先行研究の結果を整理し、各企業がなぜそのような戦略を採用するに至ったかという外部環境の変化もあわせて考察するというアプローチを採用した。なお、先行研究の再整理の結果、本調査では6つの事業戦略の型が導き出された(各型についての詳細は、「(2)インタビュー事例のまとめ」にて詳述)。

(2)インタビュー事例のまとめ
 先行研究の整理の後に、インタビュー調査を実施し、対象企業各社が中小企業であり続ける理由を、前述の事業戦略の軸によって整理した。各事業戦略の型と中小企業であり続ける理由は、以下のとおり。

@ハンター型
 ハンター型には、有望産業(今後市場の形成・拡大が見込まれるが市場規模が小さいため参入が激しくない産業)や衰退産業等、常に中小企業が活動しやすい分野に狙いを絞って活動する、いわゆる狩猟的な戦略を採用している企業が該当する。時代の変動の中で、異業種への参入や、同一業種においても全く異なる業態に変更して利潤を追うような企業も該当する。
 ハンター型の戦略を採用する企業にとっては、組織の規模が大きくなると機敏性が失われるため、中小規模である方が有利であると考えられる。
 インタビュー事例においては、創業以来同一の業界にターゲットを据えている企業と、時代の変動に合わせて異業種に参入している企業に分かれた。
 具体的には、創業から現在までの約120年間、抹茶市場に狙いを絞り、先駆的な食品用加工抹茶の展開等を行っているケースや、飛躍的な拡大が見込まれるとはいえない酪農業界分野をメインターゲットに据え、ニーズにきめ細かく対応しているケースが挙げられる。また、国内米菓市場の枠組みの中で常に新たな活動領域を模索しているケースや、鉄鋼材業界の中でも特に中小企業が活動しやすい刃物材にターゲットを定め、その領域で技術力を向上させて独自の地位を確立しているケースもあった。
 一方、時代の変化に合わせて異業種に参入している企業として、自社のノウハウを活かしつつ独自性を発揮できる分野を常に探し、その領域に主力事業をシフトしているケースも見られた。

Aサーフィン型
 需要変動が激しい市場のため、大企業であると需要が低迷した際に非効率性が顕著となることから中小規模を保っている企業が該当する。具体的には、顧客のニーズが時代と共に激しく移り変わるため、独自性の高い技術や専門性・ノウハウを武器としつつも時代のニーズをいち早く察知し、柔軟に対応する企業等が該当する。
 本調査では、押出成形の分野で、製品需要の動向に左右されないよう常に新しい素材の取扱いに向けた開発を継続し、幅広いサービスラインナップを整えて安定的な採算性を確保しているケースや、個人消費に左右されやすい刃物用素材を取り扱っているものの、受託加工を通して最新の動向を学び、それを次世代の商品に活かしているケースが挙げられる。また、水泳用品や介護用品などの需要変動が激しい業界において、商品開発力や技術力を基に強い競争力を維持し続けているケースも見られた。

Bフリーク型
 顧客との接点を重要視し、顧客をフリーク(熱狂的なファン)とすることで事業を安定・拡大する戦略を採用する企業が該当する。このような企業では、経営者や従業員が目の届く範囲で、顧客にきめ細かいサービスを提供することが必要となるため、企業規模の拡大を第一義としていないことが考えられる。
 本調査では、顧客の多様なニーズに応える20種類以上の食品加工用抹茶を揃え、顧客からの要求項目を網羅した独自の製品規格書を作成しているケースや、ハンドバッグ製作における高い企画力・技術力もさることながら、創業以来、顧客の満足を第一に考え、規模の拡大よりも自社と顧客一人一人が接点を持つことが大事と考えているケースが挙げられる。また、希少性の高い印伝技術を活かしたバッグ等の製作によって熱烈なファンを囲い込むことに成功し、メインターゲット以外の層からも強い支持を受けるケースも見られた。

Cストロング・サポート型
 下請取引を行っている企業にとって特に強みを発揮できる戦略であり、他社に模倣困難な技術を武器に、価格決定権を有している企業や、無形の専門性・ノウハウを活かして活動している企業で、かつ下請をメインとしている企業が該当する。
 本調査では、押出成形の分野において高品質かつきめ細かく幅広い対応を行うことにより、大手自動車メーカー等から高い信頼を寄せられ、独自のポジションを築いているケースや、金型製造・加工業界において、他社が模倣することが困難な製品開発・販売・提案を行うことによって、取引先から絶大な信頼を勝ち得ているケースが挙げられる。

Dサブマリン型
 大企業より高い利潤率をあげているが、大企業の目に留まらず、大企業の影に隠れて活動を続けたいという企業が該当する。具体的には、大企業独占・寡占の市場の中で一定程度のシェアを確立している企業や、OEMにより高い利潤をあげている企業等が該当すると考えられる。本調査では、ファッション業界において、特に帽子について国内外のライセンスブランドを手掛け、環境変化が激しいなかで手堅くOEM事業を行って経営基盤を安定させているケースが見られた。

Eコンビニ型
 製品ラインナップを多く揃えるが、一つ一つのマーケットが小さく、結果として多品種少量生産を武器にする企業が該当する。
 本調査では、独自性の高い和菓子のラインナップを多く揃え、爆発的なヒット商品がないものの、総合的に安定的な事業基盤を確立しているケースや、印伝を活かしたバッグ等の袋物に商品を絞り、そのなかで多品種少量対応を行っているケースが挙げられる。また、押出成形の分野で、同業他社が模様困難な多品種少量生産対応を行うことで、事業基盤を安定させているケースや、帽子という一つのアイテムに絞って、そのなかで多品種少量対応を行っているケースも見られた。このほか、コルセット等の接骨院向け商品に的を絞り、そのなかで業界他社を圧倒する3,500品目もの取扱品目数を武器に多品種少量対応を行っているケースや、水泳帽等の水泳用品のみでも2万点を超える商品を揃え、他社を圧倒しているケースも見られた。

(3)インタビュー事例のさらなる分析 〜事業戦略の背後にあるもの〜
 前述のとおり、事業戦略ごとに中小企業が中小企業であり続ける理由が整理できる。しかしながら、これらの企業における中小規模の維持という戦略は、中小規模であることが自社における最良の選択か否かを熟考し、また外部環境や内部環境を見極め、中小企業であることを前向きに捉えた上で打ち出されたものといえる。
 そこで、事業戦略ごとの分類にとどまらず、事業戦略を越えて各企業に共通する特徴を抽出すると共に、各企業がどのような視点を基に中小規模の維持という選択をしたかについて考察し、企業戦略のより深い部分を探った。
 まず、本調査の対象企業について、多くの企業に特徴的な事項をまとめると、以下の3点に集約できる。

@各企業に共通する特徴
a)永続的な企業についての意識
 事業戦略の相違に関わらず、多くの事例では、永続的な企業(Going Concern)としての自社を強く意識しており、戦略の根底としていることがわかった。
 本調査では、「躍動果敢に企業長寿」という企業理念を掲げ、会社の寿命が永遠であることが望ましいとしているケースや、2046年までの計画を定め、その計画を外部向けの広報資料にも記載しているケースが見られた。このほか、自社の120年の歴史を重視しており、企業を永続的に保つことを優先事項としているケースも挙げられる。なお、同社によれば、永続的な企業であることは、伝統を守ることと共に、同社に抹茶を提供する地域の抹茶農家に対する責務であるとも感じており、地域を支える企業であることへの自覚も強く持っているという。

b)拡大より優先する事項の存在
 本調査で取り上げた企業は、いずれも業界内で強い競争力を有しており、量的拡大(生産量の拡大、従業員数の拡大等)を第一の目標とすれば、現在以上の規模に達することも困難ではないと考えられる。しかしながら、いずれの企業においても、単なる量的拡大よりも優先する目標があることがわかった。
 具体的には、質の高いハンドバッグを作ることはもとより、顧客との関係を何よりも重視し、これにより熱狂的なファン(フリーク)を生み出し、基盤としているケースが挙げられる。同社では、顧客が経営者および従業員の目の届く範囲にいることが重要であるため、規模を拡大するという方針は劣後している。
 また、400年続く伝統の技術を守り、かつ時代に合わせた改良を重ねて後世に残すことを重視している鹿革製品の製造・販売メーカーも見られた。同社では、世界的なブランドメーカーより同社の素材を購入したいとの打診があったことにも代表されるように、現状を上回る需要が見込まれることから、量産体制を築くことで規模を拡大するという選択肢もあったと思われる。しかし、自社の伝統やデザイン力を守るため、このようなオファーに応じることもなく、独自のポジションで活動し続けている。
 このほか、従業員に目を向けると、従業員数の増加よりも生産性の向上を重視している企業があったことも、特筆すべきことといえる。例えば、従業員数を拡大することは考えておらず、従業員一人一人の生産性を向上させることで骨太の体質を作り上げ、効率的な経営を実施することを重視しているケースや、IT投資による業務効率化等が功を奏し、営業担当従業員の半減と売上増の両方を実現しているケースも挙げられる。また、従業員数の拡大については意識を向けていないが、各従業員の生産性の向上については徹底的に追求しているケースも見られた。
  新たな人材の登用に頼り過ぎず、まず生産性向上の道を模索するこの方針も、示唆に富んでいるといえよう。

c)企業の成長と従業員の成長のリンク
 前述のとおり、本調査で取り上げた企業は量的拡大も視野に入れることが比較的容易な企業も多い。現状を上回る顧客ニーズがある場合には、中途採用等により体制の強化を図って一気に業容を拡大するというアクションも可能ではあるが、本調査のケースでは外部からの人材の登用に必ずしも積極的ではない企業が多く見られている。この背景として、現在在籍する従業員が成長していくことが、企業自身の成長に深くつながるという考えが根底にあるように見受けられる。
 例えば、中途採用を控え、プロパー従業員を成長させることを優先しているケースが挙げられる。同社は、外部から優秀な人材を雇い、相応のポジションに付けた場合、プロパー社員のモチベーションが下がり、結果として企業全体のパフォーマンスが落ちることを懸念している。
 また、「次々世代の教育」と称する研修プログラムを組み、次世代を担う中堅層ではなく、さらにその次の世代を担う若手層に重点的に教育を行い、従業員と企業の成長をリンクさせているケースも見られた。
 さらに、従業員教育を徹底し、厳しい研修を行うことにより、従業員が自分自身を振り返って精神的な成長を遂げ、企業の変革・発展に役立ち、最終的に業績向上にも結びついているケースも見られた。

これら、各企業に共通する3つの特徴は、いずれも経営者が自社に対して持つ、普遍的な信念・思いにほかならない。つまり、各企業がハンター型やサーフィン型といった事業戦略を打ち出す根底にある意識といえる。

A中小規模選択の重要な視点
 次に、これら経営者の信念や思いを踏まえた上で、各企業が中小企業であり続けるという選択に至ったプロセスを追った。そこから導き出される重要な視点を整理すると、以下の3点が浮かび上がってきた。

a)「中小企業であり続ける」意識の共有
 経営者の信念・思いを踏まえて自社の進むべき方向性を検討し、後述のプロセスを経て中小企業であることが最良の選択であると判断した場合には、これを経営者のみの意識とするだけでなく、従業員を含め全社で意識を共有することが最も重要な要素となる。特に、強い競争力を有するほど従業員の間にも拡大という意識が生まれ、全社的な方向性の統一感を維持できなくなる可能性がある。大企業と比較すると、中小企業の場合は量という意味での人的資源が限定されることから、従業員がそれぞれ別の方向を向いていることは大きなロスとなる。
 本調査におけるインタビュー事例の一つに、バブル期に時代の要請によって量販による拡大路線を志向した従業員がおり、戦略の統一性が図られないといった事態が発生したケースが見られた。しかし、同社はこの時点で軌道修正し、大量生産ではなく独自性の高いものづくりという方針で全社的なベクトルを揃え、現在も中小企業として活躍を見せている。これは、従業員までを含めて意識を共有することで、生産性の向上やそれに伴う企業の活力が生み出される例といえる。
 ただし、意識を全社で共有することは、言うは易いが実行は難しいといえる。自社の業績や業況等をオープンにする等の工夫をしている企業は少なくないが、経営者あるいは経営層の理念・ビジョンまで全従業員が理解し、各自の行動に反映されているような企業はそれほど多くはないだろう。しかし、中小企業として大企業と互角に、あるいは大企業を凌駕するような活躍をし、かつ永続的な企業であり続けるために、全従業員における意識の共有は必要不可欠である。経営者にとっては、自社を振り返り、自身の信念・思いや、そこから導き出される中小企業であり続けるという選択が全従業員に浸透しているのか否かについては、継続的に確認する必要があるといえるだろう。
 なお、中小企業であるという選択をする際には、以下のプロセスが必要となる。

b)中小企業であることの検討
 「a)「中小企業であり続ける」意識の共有」では、中小企業であり続けるとの選択において最も重要な視点を挙げたが、この選択を行う前に、自社が中小企業であることが最良か否かを検討することが必要となる。ここから導き出される回答は、「@各企業に共通する特徴」で挙げた経営者の強い信念・思いに規定されるが、中でも、自社が永続的な企業として存続することを前提としているのか否かといった、企業にとって最も本質的な意識に大きく影響を受ける。
 法規制等の時限性のある事業を行う場合や、一過性の高い事業を行う場合には、短期的にとり得る最大の収益を優先するために規模の拡大を第一に考えることは意義の有ることであるし、永続的な企業として存続するという観点は不要であろう。しかし、通常の事業を行う場合には、規模が小さな企業であっても、取引先、金融機関、従業員、地域社会等さまざまなステークホルダーが存在しており、それらの利害関係者に対して継続的に事業を行うことが何よりも大きな使命となる。さらに、事業承継問題が顕在化している昨今の事情を勘案すると、自社の人材や技術・サービス力を後世に残すことを望んでいる中小企業も多く存在するのが実情と思われる。その際には、やはり今一度永続的な企業であることを強く意識し、そのために何が必要かを再考することは、今後の方向性を決める上での大きな要素となるだろう。
 これに加えて、中小企業であることが最良か否かの判断は、自社の活動領域の市場規模や今後予想される市場の成長性、市場構造(大企業独占・寡占の市場なのか、製品差別化やコスト優位を築き上げやすい市場なのか等)といった外部環境、自社の現在の設備や資金の状況、人的資本の状況といった内部環境によっても大きく規定される。本調査においても、自社の置かれた状況を徹底的に分析した上で、採るべき戦略を決めている企業が多く存在するが、これは、まさに戦略策定のプロセスにほかならない。
 なお、本調査においては、対象企業すべてが、株式公開を強く望んでいるわけではないことがわかった。そして、これは決して消極的な選択ではなく、自社の戦略的観点から導きだされた積極的な選択であった。具体的には、短期的な成長を望まず、長期的な目線での商品開発体制を築き上げるために、株式公開の誘いをすべて断っているケースや、株式公開が顧客の利益に必ずしも結びつかないとし、株式公開の意向を持っていないケースが挙げられる。このように、強い競争力を持ちながらも中小企業であることを自ら選択している企業が存在することは、多くの中小企業にとって大いに参考となるであろう。
 ただし、一方で大企業に成長するという戦略も存在するということには留意が必要である。本調査では、グッドカンパニー大賞受賞企業を中心に分析を進めたが、同賞受賞企業の中には、京セラに代表されるように中小企業から大企業に成長し、成功を収めている企業も存在することを忘れてはならない。大企業の方がより活動しやすい場合、安易に中小企業に留まることは成長のチャンスを逃していることとなり、永続的な企業であるためにも誤った選択となる可能性が高い。
 これらを踏まえた上で、改めて中小企業であることが最良と判断される場合には、自社が中小企業であり続けることを前向きに捉え、さらに中小企業というポジションで活躍するために必要な取組みを検討し、実行する必要がある。

c)強い競争力を持ち続けるための取組み
 前述のとおり、本調査のインタビュー対象企業においては、従業員数の増加ではなく、従業員一人一人の生産性を向上させることに注力し、それによって自社の競争力強化を図っているケースが多く見うけられた。また、従業員の多能工化を目指すことに積極的に取り組んでおり、従業員が様々な業務をこなすことで、同業他社にはない人材力を武器としているケースも散見される。また、プロパー社員の成長を優先するケースや、「次々世代の教育」として若手社員に重点的な教育を行うケース等、従業員の成長と企業の成長を密接にリンクさせるような取組みも、大企業とは一線を画した方法で自社の競争力を高めるための戦略といえるだろう。
 このほか、DPMシステムやERPパッケージの導入といったIT投資により、従業員一人一人の生産性を向上させることに成功しているケースも見られた 。このように、従業員の業務を支援し、より効率的な業務を可能とするための取組みも大きな効果があるといえる。
 これらの例は、まさに自社が中小企業であり続けるという自らの選択を前向きに捉え、企業規模という枠組みとは関係なく自社の活動領域で強い競争力を発揮するための積極的な取組みといえる。自社の方向性に関する徹底的な分析・熟慮の結果、自社のポジションを決定し、かつポジティブに捉えているからこそ実行できる取組みといえよう。

 以上、各企業が中小企業であり続けるという選択に至ったプロセスを追い、そこから導き出される重要な視点をまとめたが、多くの中小企業が今後の方向性を検討する上で、この3点は大いに参考となるだろう。
2 DPM(Daily Profit Management)システムは、日々の業務の結果を表す日次の損益を全社や各部門で作成することが可能となるシステム。ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージは、受注から、販売、在庫・生産管理、会計といった企業の根幹の業務を統合的にサポートするシステム。
(4)本調査のまとめ 〜中小企業として生き抜くために〜
 本調査では、中小企業が中小企業であり続ける理由を、これまでの手法である市場・業種という軸ではなく、事業戦略という軸から再構築し、検討してきた。そこでは、「中小企業は弱い存在」という従来型のイメージにとらわれず、中小企業であることを積極的に選択し、独自のポジションを築いた上で強い競争力を発揮している企業の実態が浮き彫りとなった。
 これらの企業における「中小企業であり続ける理由」には、事業戦略の背後にある経営者の信念・思いや全社的な戦略が大きく影響していることがわかった。各企業とも、経営者の信念や強い思いがまず最初に存在し、そこから「中小企業が自社の最良の判断か否か」という大きな問いに対して外部環境・内部環境等の分析を行い、最終的に中小企業であり続けると選択した場合には、それを支える取組や、全社を通じた意識の共有を前向きに、積極的に図っていた。そして、その最終的な帰結が本調査で挙げたハンター型やサーフィン型といった事業戦略である。すなわち、事業戦略は、企業の根底にある思い・信念や全社的な戦略が先鋭化したものということができる。
 多くの中小企業にとって、今後の方向性については常に判断を迫られる問題といえる。そのような企業が、これらの企業を参考にする際には、「(3)A中小規模選択の重要な視点」で取り上げた3つの視点が参考となるだろう。特に、中小企業であり続けるという選択をした場合、その意識を全社で共有することは、強い競争力を維持するために不可欠な要素である。
 今後の我が国経済においては、事業活動における不確実性はより大きくなり、中小企業にとっては規模を拡大することが必ずしも最良の選択でないという認識が重要となるであろう。自社の規模を一定に保ち、自社内でまかない切れない業務に関しては外部の企業と協調・連携することで、不確実性の高い経済社会を生き残ることが容易となるケースも多く存在し、今後この傾向が加速される可能性も十分にありうる。誤解を恐れずに言えば、企業規模をダウンサイズすることでより強い競争力を発揮し、永続的な企業となり得る企業も存在するだろう。
 ただし、繰り返しになるが、本調査は大企業に成長することを否定するものではない。しかし、中小企業にとっては大企業への成長という道のほかに、積極的に中小企業であり続ける道という選択肢も確実に存在する。それは、本調査対象企業が実行しているところである。
 昨年の金融危機による経済の縮小にも見られるように、今後経済の不確実性はより大きくなることが予想される。また、我が国では少子化の進展による市場の縮小や、グローバル化による世界規模での競争等、中小企業を取り巻く環境は大きく変化しており、活躍の機会が生み出される一方で厳しい状況に陥る可能性も大きくなるだろう。本調査における対象企業の取組み、あるいはそこから導きだされる視点を今一度見つめ直し、多くの中小企業が永続的な企業として活躍することを願いたい。
以上
 
 ページTOPへ
 調査研究事業TOPへ

The Medium and Small Business Reserch Institute All Rights Reserved