公益社団法人 中小企業研究センターThe Medium and Small Business Reserch Institute
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調査研究レポート
二極化する中小企業の収益力 〜成功企業の戦略を探る〜

1.調査目的(問題意識)
 2002年2月より始まった景気回復を背景に、中小企業の経営環境も上向きつつある。日銀短観によれば、中小企業の業況判断DIは、2002年第1四半期の景気回復局面と共に、製造業主導で改善傾向にある(図表1)。
 しかしながら、中小企業の収益力を見ると、中小企業全体としては改善傾向といえるものの、中小企業の中では規模による利益率のばらつきが拡大している(図表2)。また、業種・地域別に見ると、収益の二極化が生じていることもわかる。まず、業種別に見ると、製造業及び卸・小売業の伸びが顕著である一方、建設業及びサービス業が落ち込んでいる(図表3)。次に、地域別に見ると、東京圏・名古屋圏・関西圏といった大都市圏の伸びが顕著である一方、それ以外の地方圏の落ち込みが目立つ(図表4)。
図表 1 企業の業種・規模別業況判断DIの比較
図表 1 企業の業種・規模別業況判断DIの比較
図表 2 資本金規模別の売上高経常利益率
図表 2 資本金規模別の売上高経常利益率
図表 3 中小企業の業種別ROAの推移 図表 4 中小企業の地方別ROAの推移(伸率)
図表 3 中小企業の業種別ROAの推移 図表 4 中小企業の地方別ROAの推移(伸率)
 本調査は、以上のように中小企業の収益力が二極化しているという現状認識のもと、高収益を上げている中小企業の成功体験をとりまとめ、これを各社が共有することで中小企業全体の収益力底上げにつなげようとの狙いがある。具体的には、全国の中小企業約10万社の財務データから、業種や地域特性に留意しつつ、継続的に高収益を上げる特徴的な中小企業14社を選定し、ヒアリング調査により高収益構造を構築するに至った経緯(問題点や成功のポイント等)を分析した。
2.調査結果概要
(1)高収益を生む企業戦略 〜キーワードは「選択と集中」「新市場への参入」「ITの活用」〜
  ヒアリングで得られた情報を分析した結果、本調査で対象とした高収益中小企業に特徴的な戦略として、「選択と集中」「新市場への参入」「ITの活用」の3つが挙げられた。

@選択と集中
選択と集中は、大企業の事業再構築の際に絞り込む対象となる事業分野を特定するため採用されることが多いが、今回のヒアリング対象となった中小企業も同様の戦略を採り、いたずらに企業規模を追求せずに、分野を特定して高収益を上げている。
 また、選択と集中の内容をさらに細かくみると、各社の取組みは「ニッチ分野への特化」、「顧客の選択・集中」、「独自技術の深化」の3つに大きく分けられた。

<選択と集中 パターン1:ニッチ分野への特化>
 選択と集中を進めるターゲットとなる事業分野の市場規模が大きい場合や、当初はニッチであっても発展性が高い場合には、参入企業も多く、競争が激化する傾向にある。その結果、経営資源の限られる中小企業では継続的な発展が困難となってしまうことが多い。また、特化した市場の規模が小さく、発展性がそれほど高くない場合であっても、安定的に推移しない市場の場合は、業績の波が大きくなり不安定な経営となってしまう。
 ヒアリング事例では、ニッチ市場に特化した場合にも、市場の波を受けないような経営を行っている企業が見られた。具体的には、多様な業種や、多数の企業を取引先に抱えることで、取引先の業績に自社の業績が左右されない体制を構築しているケースである。
 ただし、ニッチな市場分野であっても、画一的な対応が可能である分野では、参入企業が多くなり、利幅が薄くなってしまう。したがって、ニッチ分野で中小企業が成功して高収益を得るためには、単に市場規模が小さい分野を選択したというだけでは足りず、他社にとって何らかの参入障壁が必要となる。
 具体的に参入障壁を築き上げた事例としては、他社に比べて圧倒的な技術力を獲得したケース、数個、数万円といった単位から受注する徹底した多品種少量生産を行うケース、他社が対応できない程のきめ細かく正確なサービスを提供するケースなどが挙げられる。特に、受注生産、多品種少量生産という形態において差別化を図るケースが多く見られた。
 顧客の要望へのきめ細かな対応、小回りが効くという点が中小企業の特徴であり、その特徴と選択した市場の特性、さらにプラスして自社の持つ技術力・サービス力を活かすことが、ニッチな分野での成功のポイントと言える。

<選択と集中 パターン2:顧客の選択と集中>
 顧客を絞り込む戦略は、経営の不安定性を増大させるリスクがあり、必ずしも得策とは言えない。しかしながら、本調査では、顧客の選択と集中を行うことで、結果としてニッチ分野での地位を確立している中小企業も見られた。
 具体的には、海外で一定の市場規模があるものの、市場環境の違いから国内市場への絞込みを行っている鋳造品メーカーのケース、取引先を1社に絞り、その1社のきめ細かい様々なニーズをフルカバーする体制を構築してクライアントの信頼を獲得している企画会社のケース、販売先を特定の業態の顧客に絞り、さらに顧客のグループごとにきめ細かに対応してオーダーメイド商品の開発を行い、業界において高いシェアを獲得している医療用品メーカーのケース、既存のプレーヤーを重視する独特の商慣習がある国内マーケットを飛び越え、米国での販売でシェアを伸ばした医療機器メーカーのケースである。
 これらのケースに共通する特徴として、クライアントからの受注が安定していることが挙げられる。その要因としては、各社ともクライアントに対してきめの細かい対応を行っていることが挙げられる。

<選択と集中 パターン3:独自技術の深化>
 選択と集中でもう1つ特徴的な戦略として、他社の追随を許さないレベルまで独自技術を深化させ、参入障壁を作っている事例が挙げられる。具体的には、スピードを持った独自の鋳造技術の深化により、顧客に先んじた提案を行っている鋳造品メーカーのケース、特定分野で常に他社の先を行く技術開発を行うべく少数精鋭体制での経営を行う溶接機メーカーのケース、他社にはできないナノ単位の粉粒体処理技術を有する粉粒体処理装置メーカーのケースが挙げられる。また、ニッチな分野で小孔径、多孔の精密打抜技術を深化させたスクリーンメーカーのケースもある。
 なお、特徴的であった点として、当該事業分野での適正規模を心掛けている企業や、技術開発に重きを置くために受注生産のウェイトが高い企業が目立つことも挙げられる。大量生産による規模の拡大よりも受注生産の分野に注力し、技術水準を保つために従業員規模を絞ってレベルの維持を図っていることが、高収益に結びついているといえる。


A新市場への参入
 新市場への参入は、高収益に結びつくケースもあるものの、厳しい競争に晒されることで逆に疲弊してしまうこともあるほか、多角化の形で新市場に参入した場合には、経営資源が分散して本業の足を引っ張ることになりかねない。
しかしながら、ヒアリングでは、「ニッチ市場への参入」「高成長市場への参入」「模倣困難な分野への参入」の3つのパターンで市場に算入しているケースが見られた。

<新市場への参入 パターン1:ニッチ市場への参入>
 ニッチ市場への参入の事例では、顧客層・市場規模が限られる分野へ参入した医療用品メーカーのケースが挙げられる。この企業は、当初はまったく別の分野の製品を作っていたが、あるきっかけから特定顧客向けの医療用品分野の製品開発を始めて市場に参入し、その分野に特化している。医療関連の市場規模は大きく、市場の伸びも見込まれる分野であるが、当社は医療関連のなかでも大きな成長が見込まれる分野ではなく、ニッチな分野で大手の参入が見込まれない部分に早くから特化して、業界で一定の地位を確立している。既存の顧客、既存の製品とは全く関連のない多角化の事例であるが、多角化により進出した市場に特化する戦略を採っている点がユニークである。限られた経営資源を活かしながらより高収益かつ参入障壁を作りやすい分野に進出した事例として、注目に値する。

<新市場への参入 パターン2:高成長市場への参入>
 ヒアリング事例では、高成長市場への参入のケースもあった。このケースでは、それまでの工作機械メーカーとしてのノウハウを活かし、発展が見込めるシリコンウェーハの研磨装置製造を手がけ、世界シェア第一位の地位を築くまでに成長している。
 この企業では、新分野参入に経営資源を集中し、難しいとされてきた量産化を独自技術により成功させ、他社に対する参入障壁を築くことができた。高成長市場分野への参入も、前述のニッチ分野への参入と同様に、限られた経営資源をどのように活かすか、他社にとって参入障壁となる自社の強みをどのように作り出すかが重要なポイントであるといえる。

<新市場への参入 パターン3:模倣困難な分野への参入>
 前述のとおり、新市場であっても他社に容易に模倣されてしまう事業であれば、高収益を上げることは難しい。しかし、自社の独自の技術力・ノウハウを活かした画期的な製品・サービスを提供する企業では、新分野においても一定のシェアを獲得・維持することに成功している。具体的には、自社の独自技術を用いてそれまで実績のなかったカムシャフト加工機の開発に成功したピストンリング加工機メーカーのケースが挙げられる。カムシャフトの分野は競合が多いものの、独自技術を軸として他社が模倣困難な製品を製造することで、今後市場シェアの拡大も見込んでいる。

BITの活用
 昨今では、企業経営にITの活用は必須であるが、本調査では、より積極的にITを活用して高収益に結び付けているケースが散見された。ITの活用の方向性としては、「社内コスト削減・効率性向上」「社内付加価値向上・ノウハウ蓄積」「顧客付加価値向上」の3点に大別できる。  なお、ITの活用について留意すべきは、単なるITの導入だけではなく、事業内容自体の強さを併せ持つ必要があるということである。ITによる効率化や社内ノウハウの蓄積は、事業そのものを主とすると従となる内容であり、収益性には寄与するものの、事業自体の強さが最も重要であることは論を待たないであろう。

<ITの活用 パターン1:社内コスト削減・効率性向上>
 社内コストの削減・効率性向上にITを活用するのは、多くの企業で行われているが、特筆すべきものとして、受注情報の一元管理システムを導入した鋳造品メーカーのケース、ITツールを積極的に取り入れて業務の効率化を図っている企画会社のケースがある。
 前者のケースでは、受注から出荷までの一連の過程を一元管理でき、事業部門では工場ごとの受注状況に応じて担当工場への振り分けを行うシステムを構築している。また、後者のケースでは、オフィスが複数の場所に分かれているため、企業規模は小さいながらも遠隔地のオフィスと毎日テレビ会議を行い意思決定の効率化を図っている。

<ITの活用 パターン2:社内付加価値向上・ノウハウ蓄積>
 社内付加価値向上・ノウハウ蓄積という点では、メーカーにおける技術・ノウハウの伝承に利用されているケースが多く見られた。過去には職人から職人への口頭による技能の伝承といった業務を通じての人から人への伝承が一般的であったが、ITの導入により人が引き継ぐべき部分とシステム化して伝承できる部分に分解して、効率的な引き継ぎを行いつつ技術力を守っているケースである。

<ITの活用 パターン3:顧客付加価値向上>
 顧客付加価値の向上に関するITの活用は、効率化、社内ノウハウの蓄積とは異なり、企業にとっては増収に直結しやすい。
 ヒアリング事例では、PCを活用したメンテナンス体制の整備により顧客の利便性向上を図り、サービスの質の向上に役立てることで、間接的に増収に結びつけた溶接機メーカーのほか、製造に関する詳細なノウハウまでウェブサイトで公開して広く情報提供を行うことで、多数の新規取引先をサイト経由で開拓したバネメーカーの事例もあった。
 さらに、携帯電話サイトを利用した情報サービス企業では、時刻表と道路地図情報を1つにまとめた検索サービスを提供し、さらにGPSを利用したナビ機能を提供することで、会員数を大きく増加させることに成功している。このケースでは、ITツールの進化に合わせた新たなサービスの提供を他社に先駆けて実施したことがポイントと言える。

(2)成功戦略を支える3つの視点 〜優位性・人材・組織風土から戦略を支える〜
 ここまで、ヒアリングから得られた「選択と集中」「新市場への参入」「ITの活用」の3つの戦略について見てきた。しかしながら、これらの戦略を採ることが十分条件というわけではなく、高収益に結びつくために以下の3つのポイントが不可欠であると考えられる。

@他社の追随を許さない優位性
 ニッチな分野であっても、参入が容易であり画一的な対応が可能であれば、他社が参入してくる可能性がある。また、高成長分野であれば、より多くの企業が参入し、競争が激化すること必至である。このように、無競争状態の市場というのは通常はなく、その市場で高収益を上げるためには、他社との競争に打ち勝つ優位性が必要である。
 事例でも、独自の技術開発、顧客対応のきめ細かさなど、自社の強みが他社にとって参入障壁となっているケースが多く見られた。
 ニッチ市場への特化、高成長市場への参入といった戦略は、ただ市場のみを選択するのではなく、他社の追随を許さない優位性を備えることが併せて必要と言える。

A人材の確保・活用
 中小企業では、人材の確保が大きな課題となっていることが多い。また、中でも規模の小さい企業では従業員の変動がなく、常に同じ顔ぶれで業務を行っていることが多い。
 しかしながら、今回ヒアリングを実施したほとんどの企業では、コンスタントに採用を行っており、程度の差はあるものの人材の新陳代謝が行われている。特に、技能の伝承やサービスの拡充を行うために人材を確保するケースが多く、現状に満足せずに製品・技術、サービス水準を高めようとする戦略が人材確保の方針にも表れていると言える。
 さらに、人材の活用面では、若手に権限や活躍の機会を与えるなど、権限委譲が進んでいる企業が多いのが特徴である。中小企業であるため人材に限りがあり、必然的に権限委譲が進むという訳ではなく、経営者自らが若手の育成のために積極的に若手を活用する体制を構築しているケースが多く見られた。
 このように、人材の確保・活用を積極的に行うことで人材の質が高まり、経営環境の変化にも素早く対応できる組織を作ることにつながると考えられる。例えばニッチ分野や拡大する新市場においては、競合に対する優位性を確保するために絶え間ない技術・サービス開発が必要であろうし、日々技術が進歩するITの活用においても、素早い対応が必要となる。この点からも、特に若手を中心とした人材の確保・活用は、高収益を維持するためには重要な要素である。

B組織風土
 前述のとおり、ヒアリング事例では、権限委譲が進んでいる企業が多く、従業員が自主的・積極的に動いているケースが多々見られた。最終的な経営判断は社長がスピーディに下すという点ではどの企業も共通ではあるが、例えば製品・技術開発、サービス開発などにおいて従業員の側から提案やアイディアが活発に出され、失敗をおそれずにチャレンジさせる風土が根付いていると感じられる企業が多かった。
 これらの企業では、従業員を大切に扱い、役職に関わらず従業員を公平に処遇している。その結果、現場が活性化し、最終的には企業の発展につながると考えられるが、これらの企業では、このような考えを経営者自らが信念として持っていることが特徴的であった。
 また、規模の拡大をしない方針を持つ企業も多数見られた。市場の成長に合わせた自然な拡大は別として、多角化などでいたずらに規模を追わず、限られた資源を集中するという方針が社内に徹底されている企業が多く見られたのが印象的である。規模を不用意に拡大しないことで経営者の目が隅々まで行き届き、経営陣から末端の従業員までが一丸となった事業展開ができるという大きな利点があると言える。

  このように、前述の3つの戦略を「優位性(=強み)」「人材」「組織風土」の点から支え、両者が上手くかみ合いながら経営を行うことが、二極化が進展する中小企業の中において高収益を維持できる秘訣であると言えよう。
以上
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